テレビアニメに描かれたいじめ
小説やテレビドラマにおいて、いじめという題材は長年にわたって描かれ続けてきました。では、テレビアニメの中でいじめを扱った作品は存在するのでしょうか。実は、数は多くないものの、テレビアニメの中でもいじめをテーマに取り上げた例があります。
ここで取り上げるのは、劇場用アニメやOVAではなく、あくまでテレビ放送されたアニメ作品です。
「ハイスクールミステリー学園七不思議」(1991年)
まず一つ目は、1991年に放送された「ハイスクールミステリー学園七不思議」です。原作は、オカルト漫画の第一人者・つのだじろう氏。本作は、いじめが原因で起こる自死を描いた、テレビアニメとしては日本初の作品とも言われています。
ただし、物語の中心は心霊現象や霊的トラブルであり、いじめによる悲劇もその中の一要素として扱われています。そのため、社会問題としてのいじめに真正面から取り組んだというよりは、オカルトの文脈で語られている印象が強い作品でした。
「名探偵コナン」
次に挙げられるのは「名探偵コナン」です。国民的アニメとも言える本作ですが、一部のエピソードではいじめが事件の動機として登場します。しかし、あくまで推理ドラマの展開上の要素として使われており、いじめ自体の問題に深く踏み込むような内容ではありません。
言ってしまえば、いじめは犯人の「背景」に過ぎず、事件の真相に至るためのパズルのピースの一つとして描かれるにとどまっています。
「美味しんぼ」
一方、グルメ漫画として知られる「美味しんぼ」では、ある一話でいじめ問題に前向きな視点から取り組む内容が描かれました。物語は食を通じて人間関係や社会問題に切り込むスタイルを持っており、その中でいじめというデリケートなテーマにも独自のアプローチで向き合っています。
派手さはないものの、登場人物たちの言葉や行動には、いじめをどう受け止め、どう向き合うべきかというヒントが込められており、視聴者に考えるきっかけを与えてくれる内容でした。
筋肉少女帯「タチムカウ」に見る“抗う声”
テレビアニメとは別のメディアになりますが、音楽の世界でもいじめを主題にした作品が存在します。筋肉少女帯の楽曲「タチムカウ」は、いじめられっ子の怒りや悲しみ、そして反抗心を詩的に、かつ激しく描いた一曲です。
もっとも、明確にそれをテーマとして明示しているわけではありませんが、シングル盤のカバーには漫画「右向け左!」で知られる、すぎむらしんいち氏が起用され「ナイフを手にした傷だらけの男子中学生」が描かれており、匂わせています。
歌詞の一部をご紹介します。
『一人一さつ、道連れ♪
あえてガタガタ震えて立ち向かう♪
僕らガタガタ震えて立ち向かう♪
誇り高き人間の証明♪』引用元:『タチムカウ – 狂い咲く人間の証明』より
また、なぜかこの曲が収録されたアルバム版「最後の聖戦」のジャケットには、小林源文氏によるイラストが使われており、軍事的かつ重厚な雰囲気がこの曲の持つ過激性と見事にマッチしています。
小林源文氏が漫画作品の中で中村正徳イジメなどでユーモアを交えた描写をするのに対し、すぎむら氏は陸上自衛隊内部のいじめを生々しく描くなど、対照的なアプローチを取る作家です。
このように、アニメや音楽、そして漫画など、いじめというテーマは様々な形で取り上げられ、受け手に異なる角度からメッセージを伝えています。深刻な問題であるがゆえに、描き方には慎重さが求められるものの、その一方で表現者たちの姿勢が垣間見えることもまた事実です。