こんにちは、僕はフォックス・モルダー。FBIの特別捜査官で、局ではかなり嫌われている。
まぁ、言ってしまえば、鼻つまみ者だね。このひまわりの種、実は2年前のものだけど、ビンに入っているから問題ないはずだよ。食べながら話を聞いてくれ。
局内では「変人モルダー」として有名さ。どれくらい変人かって?上司の期待を裏切ることなんてしょっちゅうだ。
もちろん、今回も例外ではないよ。ちなみに、今までで最も退屈だった仕事は、公務員採用予定者の思想信条調査だったね。
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というわけで、偽モルダーの自己紹介から始まった、このクソ記事です。
いまだにその人気は衰えることを知らない名作ドラマ『X-ファイル』は、まさに古典的存在と言える海外ドラマです。
『X-ファイル(The X-Files)』は、1993年から2002年にかけてアメリカのFOXテレビで放送されました。超常現象に挑む男女二人の連邦捜査局(FBI)特別捜査官の活躍と苦悩、そして政府による陰謀を描いたミステリアスなドラマです。
主人公のフォックス・モルダーは、子供の頃に妹・サマンサが宇宙人に拉致されるという深い心の傷を抱えながらも、オックスフォード大学を卒業しました。その後、スコットランドヤード(ロンドン警視庁)を経て、最終的にアメリカ合衆国連邦捜査局FBIの特別捜査官に任命された、非常に優秀な人物です。
モルダーはFBI凶悪犯罪課の行動科学班でプロファイラー(心理分析官)として数々の凶悪犯を挙げる実績を重ね、将来の長官候補とまで言われるほど上層部から信頼されていました。
そんなモルダーは、あるとき捜査の息抜きにと、コーヒーと好物のヒマワリの種を片手に、未解決事件ファイル集――通称『Xファイル』を読み始めます。
書類キャビネット一杯に収められたXファイルには、宇宙人や心霊現象といった、いかにも胡散臭い未解決事件ばかりが記録されていました。
しかし彼は、それらの奇妙な記録に強く惹かれ、ついには自らXファイル課への転属願を提出してしまいます。ここからモルダーの「負け犬人生」が始まりました。
同時にモルダーは、局内での出世競争を自ら放棄した変わり者、オカルトマニアとして知られるようになり、悪趣味なネクタイのセンスもあって「スプーキー(変人)・モルダー」と陰口を叩かれる存在になってしまいました。
Xファイル課は、世間の注目を集める最新の凶悪犯罪やテロ事件を追う部署ではありません。それにもかかわらず、モルダーは局内でも優秀な心理分析の専門家であり続け、かつての同僚やスキナー副長官からは変わらぬ信頼を寄せられています。ネクタイのセンスは相変わらずですが。
モルダーが異動したXファイル課は、フーバー・ビル地下にある、コピー室や資料室、掃除用具置き場を兼ねたような、日の当たらない小さな部屋でした。この部屋には同僚も部下もいませんでした。かつての先輩も既に退官しており、モルダーは事実上一人きりの状態でした。
モルダーはこの部屋の「主」として、朝8時30分から夕方5時までひとり籠もり、昼にはカート売りのサンドイッチを買って食べ、食後には必ず歯を磨いていました。
そして宇宙人や怪物、怪人などの写真を検証し、文献を読みあさり、膨大な記録の中から事件同士の関連性を見つけ出してプロファイリングし、情報としてまとめ上げるインテリジェンス業務に取り組んでいました。
時には、経費の使い方に関して叱責してきた監査官を返り討ちにし、連邦捜査官として実際に現地に赴き、捜査活動にも精力的に取り組んでいました。
モルダーの勤務態度は、どちらかといえば日本人サラリーマンも驚くほど真面目なものです。
作中では、モルダーが四年間一日も休まずに働いてきたという描写があります。
ところが、それが評価されてボーナスが上がるわけではなく、逆に「10日間の休暇を消化しないと八週間分の賃金をカットする」と人事部から通告されてしまいます。
日本のブラック企業とはまるで逆の対応です。
「僕も生活のためにはお金がいるからね」と、モルダーはしぶしぶ通告を受け入れます。しかし本人としては、仕事が面白いからというより、休むとそれを口実にして局を解雇されるかもしれないと警戒していたことが、なんとなく想像できます。このあたりは日本のサラリーマンにも通じる哀愁を感じさせます。FBI特別捜査官の八週間分の賃金がいくらなのかは、知るよしもありません。
モルダーによる超常現象捜査を、FBIの上層部は『市民に慕われる捜査官プログラム』として積極的に広報することもなければ、特に咎めることもありませんでした。最初のうちは、変わり者の遊びや興味本位の活動だろうと軽く考え、黙認していたのです。
しかし、次第に彼を煙たがるようになります。
モルダーは単なる好奇心ではなく、子供時代に起きた妹・サマンサの拉致事件という心の闇を晴らすために、本気で宇宙人との関係を探ろうとし始めたからです。そして彼は、政府の陰謀と宇宙人の関与に関する真実に近づいてしまいます。ディープステートは、その暴露を恐れ、FBIの上層部に対して圧力をかけるようになります。
「肺ガン男」。
政府の影の組織の現場統括責任者とも呼ぶべきこの男は、モルダーのもとへ一人の才女を送り込みます。それがダナ・スカリー捜査官でした。彼女は医師であり科学者でもあり、科学的見地からモルダーの主張を否定し、彼の捜査活動を抑えつつ監視するという密かな任務を負っていました。最終的には、「宇宙人はいない」と納得させて、モルダーを無気力化させ廃人にすることが目的だったのです。
ところが、モルダーは彼女が『監視人』として送り込まれたことを最初から百も承知していました。ちなみに、スカリーの卒業論文のテーマも把握していたほどです。
幸か不幸か、スカリー自身も自分が配属された本当の理由を理解していながら、9年近くモルダーとともに数々の怪事件を捜査し、ときに命の危機に直面しながら、助け合い、運命を共にする存在になっていきました。
このような物語なのです。
本作の魅力の一つは、全米各地の安いモーテルに泊まりながら事件を追うモルダーとスカリーの姿に、ロードムービー的な情緒が感じられるところにあります。
日本では1995年から1997年までテレビ朝日系列で放送され、海外ドラマとしては異例の平均視聴率15%を記録し、大ブームを巻き起こしました。2016年には、14年ぶりとなる「season10」にあたるミニシリーズが制作され、好評を受けて2017年には「season11」も制作され、2018年には日本でも公開されました。
本作の脚本および製作総指揮を務めたクリス・カーターは、もともとコメディドラマの脚本家として活躍していました。なお、本人も数回、劇中にカメオ出演しています。
余談ですが、『仮面ライダー』シリーズの原作者として知られる石ノ森章太郎氏は、のちに大ヒットとなる刑事ドラマ『おみやさん』の原案者でもあります。
『おみやさん』では、資料室勤務の鳥居刑事と洋子巡査のバディ関係が描かれています。鳥居刑事は、一見すると冴えない“変人”に見えますが、実は上層部からの信頼も厚い優秀な人物です。この構図は、どこかFBIのXファイル課に飛ばされたモルダーとスカリーの関係を彷彿とさせます。
さらに、石ノ森氏原作のアニメ『まんが日本経済入門』にも、資料室で冷や飯を食わされながらも有能な主人公・結城が登場します。石ノ森作品では、「優秀な人物ほど一線で活躍せず、資料室にいる」という独特の配置が見受けられます。
こうした描写を見ると、石ノ森章太郎氏の作品の中には、すでにXファイル的な構造の下地が存在していたのかもしれないと感じさせられます。