感想:「X-ファイル シーズン6」第2話「迷走」(DRIVE)

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(© 20世紀テレビジョン/ウォルト・ディズニー・カンパニー)

【X-ファイルS6-02「迷走」感想】

高速移動しないと頭が破裂する奇病!?まさかの政府陰謀論が爆走する回

「X-ファイル」シーズン6第2話「迷走(Drive)」。軽い気持ちで観るとビックリするタイプの回でした。

ネタバレを含みますのでご注意ください!


【あらすじ:開始3分で奥さんの頭が破裂】

いきなりですが今回、頭が破裂します。それもかなり唐突に。

舞台はネバダ州。州間高速道路をぶっ飛ばし、一台の車両が警察から逃走中。ついに警察の設置した針付き停車装置で車両が止められた。運転手の男は引きずり出されて御用……かと思いきや、同乗していた女性が突然うめき出し、頭をサイドウインドウに自ら打ち付けたと思った次の瞬間、何かが破裂しガラスが真っ赤に染まった……。

まさかの冒頭3分で人間の頭部爆発事件発生。いったい何が起きたのか。

女性は運転してた男・クランプの妻。夫婦での逃走劇、いったい何から?彼女はなぜあんな惨い死に方を?モルダーとスカリーはどう介入するのか。


【その頃モルダーとスカリーは……雑用中】

1998年のある日。FBI副長官カーシュの命令により、モルダーとスカリーはアイダホ州の農村地帯で、国内テロに関する「調査」と称された、ほとんど嫌がらせに近い任務に従事していた。

「大量の肥料(尿素?)を購入した農家に一軒ずつ訪問し、テロの兆候がないかを確認する」というもの。農薬が爆発物に転用できるためゆえだが、極めて非効率、かつ地味。まるで職務ではなく“島流し”のようなものだった。

日本でも尿素大量購入者は警察に通報される場合があります。

まあ、こんな感じで地味な捜査ですな。

相変わらず手を抜かないスカリー。モルダーは思わず「若い奴が暇すぎてパイプに詰めたラセットバーバンク(アイダホのイモの品種)を空気圧で飛ばして飛距離を競う奇祭でも開催しそうだな…あれはぶっ飛ばすのにちょうどいい手ごろなサイズと形だ。なあ、スカリー?きみもやったことあるだろ?高校時代さ・・工事現場から持ってきた塩ビパイプに芋を詰めて、チャリの空気入れで圧縮空気を入れて飛ばしたろ?友人が飛ばして命中した先が教頭の車でさ、ボディが凹んで飛び散ったイモの悲惨な光景は今でも忘れられないよ……しかも、僕が犯人扱いされて学校のトイレを素手で掃……」と言いかけたところで、スカリーは調査票の挟まったバインダーでモルダーの頭をバイーン!と叩く(そんなシーン一切ないです)、そんなのどかすぎるアイダホの農村で、FBI捜査官の男女は今日も任務に励む。

ちなみに二人のこの手の閑職は、地味な盗聴任務、もしくは公務員採用予定者の思想チェックなどと並ぶ、“モルダーの左遷ローテーション”としてすっかりおなじみである。

そんな中、とある農家のリビングで流れていたテレビニュースが、モルダーの目をとらえる。ネバダ州で、走行中の車内で女性の頭部が突如破裂したという、常識では説明のつかない事件が報じられていたのだ。モルダーの勘が騒ぐ。

当然ながら、ネバダへの寄り道を提案。しかしスカリーは案の定、疲れきった表情で「またそれ…?」とため息。だが結局、いつものように、彼の異常な勘に付き合う羽目になるのだった。もちろん、今回もモルダー以上に異常な現象が待ち受ける。

【番外】モルダーの時計に注目

今回のエピソード「迷走」で、ふと気になったのがモルダーの腕時計。いつものレザーバンド仕様の「オメガ・デ・ヴィル」ではなく、明らかにクロノグラフを着用していました。金属ケースのボリューム感もあり、スーツ姿に合わせるには客先での商談中、嫌味を言われかねない、やや主張の強い時計です。

時間に追われながらも真実を追い求める男の象徴として、腕時計が果たしている役割は小さくないと思います。

スカリーもオメガを着用していることから、本作のスポンサーはオメガ社だと考えられますが、定番のスピードマスターとは違う印象。もう少しアンティークなデザインでした。

いやー、サラリーマンにはクロノグラフが本当に似合いますね(何に使うんだ?そのタイマー機能)。


【ついに真相(?)が明らかに】「止まったら死ぬ」──それでも走る、逃げる、真実に近づくために

現地警察で収監中のクランプと面会しようとしたところ、なんとクランプがまた苦しみ出して大騒ぎ。救急車に運ばれるも、移動し始めた途端ピタッと元気に。おい、どうなってんだ。

しかも回復したクランプ、今度は警官の銃を奪って脱走。乗ってた救急車を乗っ取り、ついにはモルダーの車をハイジャックして「西へ向かえ」と指示。

クランプは語ります。「自分たちは政府の秘密実験の犠牲者だ。じっとしていると、頭が爆発する。だから西へ向かって走り続けなければならない」と。

にわかには信じがたい主張です。止まると死ぬ?移動していれば助かる?──まるで都市伝説のような話ですが、目の前でその妻が命を落としたのを見たモルダーは、逡巡しながらもその訴えを受け入れ、ハンドルを握ります。

ここから物語は、“走り続けなければならない理由”を抱えた2人による、異様な逃避行へと突入します。

いや、これ、あれですね。「今すぐ来てくれ!」と取引先から怒号の電話を受け、プロボックスを駆ってひたすら東名高速を130キロで西へ飛ばす高学歴の社畜サラリーマンみたいな感じです。

実際、後半でモルダーがガソリンスタンドで拝借した、60年型のカプリス・バンがまさにこんな感じで哀愁が……。


【じっとしてたら死ぬ病、って何!?】

ここでようやくわかってくるのが、クランプ夫妻を襲った謎の症状。なんと、動きを止めると内圧が上がって頭が破裂するという、文字どおり命がけの奇病でした。

しかも原因は「軍の施設の近くに住んでたこと」。つまりこれは……国家的陰謀案件か!?

【スカリー視点:伝染病の疑いを調査】

モルダーは車を走らせながら、クランプの話と現場の状況から、どんどん陰謀のにおいを嗅ぎつけていきます。もちろんスカリーは、電話越しに科学的視点から冷静に突っ込む。いつもの黄金コンビ。

物語の裏側で、スカリーは犠牲となったクランプの妻の検死を進めていた。警察は1発も銃を発砲していないため、銃撃の傷はなく、外傷はほとんど見られなかったものの、耳の内部に深刻な損傷があり、まるで内側から耳が破裂したかのような状態だった。

やがて、第2の犠牲者も同様の症状で命を落とす。この時点でスカリーは、原因は未知の伝染性疾患ではないかと考え、感染症対策の医療チームとともにクランプの自宅の調査に乗り出す。

調査の結果、自宅周辺ではクランプ夫妻の飼っていた犬や、近隣の鳥などにも異常死が確認された。一方で、すぐ隣に住んでいた聴覚障害を持つ住民女性にはまったく健康被害がなかった。こうした事実から、スカリーは「これは感染症ではなく、音、あるいは何らかの聴覚に作用する要因が原因ではないか」と仮説を立てる。

【真相が明らかに】

調査を進める中で、クランプの自宅近くに存在する海軍施設が浮かび上がる。スカリーは海軍に連絡を取り、事故当日の早朝、その施設で一時的な電圧異常が発生していたことを突き止める。

その施設では、軍が極低周波(ELF)無線の実験を行っており、その装置が異常な出力を記録していた可能性が高かった。スカリーは、この実験により発生した特定の音波が、生物の内耳に異常な圧力をかけ、致命的な損傷を引き起こした可能性が極めて高いと判断する。

クランプの症状もまた、この“音”によって引き起こされたものと考えられた。特に彼の訴えにあった「動いていれば楽になるが、止まると激しい痛みが襲う」という症状は、内耳の圧力変化と整合する。

スカリーは、モルダーとクランプが移動中であることを踏まえ、彼が到着するまでに医療処置で内耳の圧を抜き、命を救える可能性を模索する。しかし、モルダーの車が到着したときにはすでに遅く、クランプは激しい苦痛の末に死亡。妻と同じく、頭部に深刻な損傷を負っていた。

科学と陰謀が交錯する中、今回の事件は公式には「原因不明の奇病」として処理される。また、モルダーらが正規任務以外の事件に介入したことについて、カーシュ長官代理からのきつい叱責が待っていた。しかし、スカリーとモルダーは、その背後にある国家レベルの実験と、その影響を疑わずにはいられなかった。


【まとめ:X-ファイル版『スピード』?】

ということで、今回は「走らないと死ぬ男」と「車内に監禁されるFBI捜査官」が繰り広げる、スピードと陰謀と頭部破裂の物語でした。

このエピソード、止まったら死ぬという設定がまるで映画『スピード』を彷彿とさせますが、物語の後半は、より不気味で生々しいほとんどロードムービーのような構成です。

クランプとモルダーの2人が、ひたすら西へと走り続ける中で交わされる会話は、緊迫感と虚無感が入り混じったもので、希望から絶望に真っ逆さまに落ちてしまうのがなんとも言えない。

妻を救おうと命懸けで車を走らせたクランプ。しかし結果的にその努力は実らず、彼女は目の前で命を落としました。しかも、その原因は国家機密にかかわる可能性が高い、極低周波無線の軍事実験。

潜水艦との通信を目的とした施設が日本にもあります。

海上自衛隊の謎の電波『Japanese Slot Machine(ジャパニーズ・スロットマシン)』

最後には「止まった瞬間」に自らも同じ運命を辿ることになる展開は、あまりにも皮肉で、後味の悪さが残ります。

スカリーは冷静な調査を通じて真相に迫ろうとしますが、軍の機密性やタイミングの問題もあり、最終的にクランプを救うには至りません。そしてFBI捜査官であるモルダーもまた、「何かがおかしい」と確信しながらも、確たる証拠を押さえることはできず、巨大な国家権力の影に打ちのめされる形となりました。

エピソードのラスト、モルダーが何も語らず、ただじっと海を見つめるシーンが印象的です。誰かを救いたいという一心で動いた者たちが報われず、ただ波の音だけが静かに響く。
あらゆる正義が通じない世界を前に、言葉はもはや意味を成さず、残されたのは疲弊と喪失。

さらに今回のモルダーの“本来の職務から逸脱した行動”によって発生した一切の「不必要な費用」は、モルダーおよびスカリーの私費で弁済するようにカーシュから勧告されるという、あまりに無情な事務処理で幕を閉じた。

それでも、モルダーは立ち止まらないでしょう。どれだけ報われなくても、彼の信じる真実のために──。

とくにシーズン6は、全体的にモルダーとスカリーがXファイル課員を正式に外され、代わってジェフリー・スペンダーとダイアナ・フォーリーが着任することで、モルダーたちは地味な仕事に邁進(カーシュの策略により)する羽目になるのが特徴的です。それでもスキナー副長官のバックアップと良好な関係は継続しているのが救いですね。

というわけで、シーズン6の各エピソードは、モルダーが勝手に首を突っ込む話、偶然巻き込まれ型の話(スキナーと一緒にFBI本部で夜勤中、騒動が発生する『S.R.819』、モルダーが銀行振り込みに向かった先で銀行強盗に遭う『月曜の朝』、モルダーのアパートの隣人が変だった『ミラグロ』など)、モルダーとスカリーが公私の曖昧な立場でXファイルっぽい事件に巻き込まれる話(『アンナチュラル』、『ドリーム・ランド』、『アグア・マラ』、『クリスマス・イブの過ごし方』など…)、ちょっと他のシーズンと比べてもだいぶ毛色が違う面白さがあります。

スカリーのトリップが見られる「荒野の3人」も面白い。

ちなみに今回のエピソードでクランプを演じたのはブライアン・クランストン。のちの『ブレイキング・バッド』のウォルター先生ですね。やたら存在感あるなと思ったら納得です。

なお、今回、モルダーの「ライト」の出番ありません。

『Xファイル』2016年版で登場したライトの機種が判明!詳しく解説します!

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