健康保険証や免許が盗まれたら

健康保険証や運転免許証が盗まれるとどうなるか。
置き引きや車上荒らしで持ち去られたそれらの公的身分証は、他人の手に渡った時点で、すでに「道具」としての価値を帯びる。

本人になりすまして携帯電話を契約されたり、サラ金から金を引き出されたり──悪用される可能性は、決して空想の話ではない。むしろ、現実は淡々と犯罪の温床になっている。

では、健康保険証や運転免許証だけで、本当にカネが借りられるのか。
運転免許証は写真付きで信用度が高い。それに比べれば、保険証は名前と生年月日、住所があるだけの紙切れにすぎない。しかし、軽く見てはいけない。

国民生活センターの見解によれば、「一部のサラ金では、保険証だけでも借入は可能」とのことだ。
つまり、顔が見えなくても、借金はできる。必要なのは、書類と虚構だけ。

それが、いまの現実である。

「実際、健康保険証や運転免許証を身分証明書として利用する消費者金融や信販会社も少なくなく、被害を防ぐためには早急な対応が必要です」

引用元 http://www.kokusen.go.jp/jirei/data/200505_1.html

盗まれた健康保険証が使われ、第三者とサラ金業者の間で違法な契約が結ばれる──そんな被害は今もなお後を絶たない。
誰かが他人になりすまし、書類ひとつで金を引き出す。それを止める制度は、まだ不完全である。

防ぐ手はある。
事前に、自分がサラ金から借金できないよう手続きをしておく。いわゆる「本人申告コメント制度」などがそれだ。
たとえば、全国信用情報センター連合会が提供するこの制度では、信用情報に「借入拒否の意思」を記録できる。

http://www.fcbj.jp/c/c_21_1.html 「全国信用情報センター連合会」 本人申告コメント制度

もっとも、第三者による不正使用は、法的には「契約成立」とはならない。
民法上は無効である──それが国民生活センターの公式見解だ。

法は、そう言う。しかし、現場はそれほど整然とはしていない。
現実の混乱は、条文ひとつで消えるほど甘くはない。

万が一、あなたの健康保険証等が身分証明書として第三者に不正使用されたとしても、あなたと消費者金融等との間に契約が締結されたわけではないので、請求に応じて支払わなければならないということはありません。

引用元 http://www.kokusen.go.jp/jirei/data/200505_1.html

つまり、誰かが勝手にあなたの身分証を使って契約を結んだとしても、それは法的には無効である。民法の世界では、あなたに支払う義務は一切生じない。

だからといって安心していいわけではない。
まず、盗難に遭ったなら、何よりも先に警察に被害届を出すこと。それが一丁目一番地である。

もし請求書が届いたら──それはつまり、すでに誰かがあなたになりすまして金を引き出したということだ。そうなったら、国民生活センター、または地方自治体の消費生活センターに相談する。これは義務ではないが、ほぼ唯一の現実的な選択肢である。

最終的に支払い義務は免除されるかもしれない。だが、その過程が面倒で煩雑なのは言うまでもない。
そして何より、不愉快だ。

「アンタが見えるように車に置いとくのが悪いんじゃないの?」
「盗まれる側にも落ち度ってあるんですよね」

そんな言葉を、わざわざ口にする者がいる。聞きたくもないが、確かに的を射ている。だからこそ、車内に貴重品は置かない。やむを得ないなら、視界から隠す、スモークを貼る、セキュリティを装着する。こちらの「落ち度」を最小限にしておくしかない。

そもそも、健康保険証を日常的に持ち歩く意味はあまりない。
交通事故などの緊急搬送で病院に運ばれたとしても、治療費の請求は後日だ。保険証の提示は、その時すればいい。
保険証は、財布ではない。厳重に保管されるべき身分証である。

キャッシュカードの話も同じ構造だ。
バッグごと落とし、免許証やカードがセットで入っていれば、犯人の手間はほとんど省ける。暗証番号が生年月日なら、それこそプレゼントである。

「お客様の設定された暗証番号が生年月日だった場合、当行では補償いたしかねます」

銀行は冷たい。だが、間違ってはいない。
銀行関係の暗証番号は、生活と無関係な数字にしておくべきだ。多くの金融機関が「生年月日番号には補償制限あり」と注意を促している。

http://news.livedoor.com/article/detail/6778475/

ちなみに「盗まれた」のではなく「落とした」場合、補償はゼロ。これは確定事項である。

運転免許証の盗難も、流れは同じだ。
まず被害届。再発行は地元の警察署ではできない。都道府県の免許センターが対応窓口となる。大阪府では顛末書の提出も求められる。
仮に見つかったら、ただちに返納。放置すれば二重登録のリスクを生む。

免許の再交付手続きは自治体によって異なる。詳細は各都道府県警のウェブサイトで確認されたい。

健康保険証等が盗難された場合の対応まとめ

対応項目 説明
警察に盗難届を提出 第一優先。証拠として残す。
健康保険証の再交付 旧証は無効化され、第三者の使用は不可に。
相談機関に連絡 国民生活センター・消費生活センターで相談。
不正な借金は無効 民法上、契約は成立しておらず支払い義務なし。

他にも、法テラスや市役所の無料法律相談など、頼れる場所はある。孤立する必要はない。

盗難対応参考:京都府南丹市公式サイト(PDF)
http://www.city.nantan.kyoto.jp/www/resource/kurashi/syouhiseikatsu/PDF/hokensyouhunsitu21.2.pdf

それでもなお、一部の悪質業者は言ってくる。

「盗まれたアンタにも責任があるだろう?」

そう言われたら、内容証明で反撃せよ。法的根拠をもって、こちらに支払い義務がないことを明示すべきである。

最後に。
被害届は、すぐに出すこと。
警察はこう言うはずだ。

「一応、捜査はしますけど……まあ、ほとんど見つからないと思ってください」

期待しないことだ。それが一番の防衛である。