【知らないと危険】懐中電灯(ライト)の持ち歩きが違法扱いになるケースとは

近年、主流となっているタクティカルライトには、「ストライクベゼル」と呼ばれる特徴的な突起部が備わっているものも多くあります。いわゆる“トゲトゲ”の部分です。

本記事では、このストライクベゼルについて、デザイン面や法的リスク、そして護身具としての使用実態までを含めて検討していきます。

結論から申し上げますと、現場警察官は軽犯罪法違反として挙げたいようです。

この記事は元々2016年ごろに書いたものですが、近年、警察による職務質問からのライトの摘発事例がネットで数多く散見されるので、取り締まり指針が明確に変わった可能性もあります。ここで一つまとめなおしておきたいと思いますが、今でも変わらず、筆者はストライクベゼルのついたライトは敬遠しています。

タクティカルライトをめぐる“攻撃的デザイン”は装飾か機能か

製品全般に言えることですが、ライトに限らず、クルマやガジェットなども新型が出るたびに装飾的な要素が増えていく傾向にあります。かつてのようなシンプルなデザインから、よりアグレッシブな外観へと変貌を遂げることも少なくありません。

タクティカルライトにおいては、それが攻撃的な突起として表面化しています。たとえば、以下のような製品がその典型です。

ストライクベゼルの本来の“目的”とは?

ところが、このストライクベゼル、本来ははデザインの一部ではなく、明確な目的を持って設計されたパーツです。その主な用途とは「鈍器」としての活用です。

さらに、緊急時に自動車の窓ガラスを破砕するための「ガラスクラッシャー」としての機能も兼ね備えているとされています。

ただし、日本国内において、そのような使用目的を前提とした器具を“持ち歩く”という行為は、かなりグレーゾーンです。法律に詳しい方であれば、携帯自体が問題になる可能性にすぐ気づくでしょう。


警察官に見とがめられる“リスク”

街頭で職務質問を受けた際、この“トゲ付き”のライトを携行していた場合、警察官からの厳しい問いかけを受けます。

以下は2021年3月、JR町田駅前で2名の男性警察官に声を掛けられたA氏(30代男性)が持っている懐中電灯3本(内訳はELPA、ストべゼのないSUREFIRE、nitecore P20II)を見せると「軽犯罪法違反だ」と言い、交番で事情聴取された事件についての記事です。

警視庁警察官の言い分

「タクティカルライトで金属製、光源部にギザギザがあり、殴るなどしたときに鈍器となるため危険である、そのようなものを隠し持っていたから、軽犯罪法1条2号(「正当な理由がなくて刃物、鉄棒その他人の生命を害し、又は人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具を隠して携帯していた者」)に該当する。」

引用元 小型懐中電灯は「凶器」だ!事件/警視庁町田警察署 全国市民オンブズマン連絡会議

上記の記事は非常に興味深いものであり、所持をしていたAさんの主張および警察官側の「タクティカル=戦闘だ、お守りということは護身や攻撃の意思があるだろう」「SUREFIREは丸まっているので今回は見逃す、ただしもう持ち歩くな」という激し詰め寄りかたまで詳細に記載されています。

結局は弁護士を選任したことで、検察庁に事件送致されることはとりやめになったそうです。

Aさんは自分が新人警察官の実践訓練、実績作りに利用されたように感じたそうです。

2017年の福岡県大野城市の事例

2017年3月、福岡県大野城市で「自称・土木作業員」の41歳の男性が、軽犯罪法違反の容疑で現行犯逮捕されました。報道によれば、逮捕の理由は「正当な理由なく懐中電灯を所持していた」というものでした。

このニュースはネット上で広く拡散され、「ライトを持っているだけで逮捕されるのか」と多くの人々に衝撃を与えました。

典拠:J-CASTニュース(2017年3月12日)

この男性が実際に犯罪を計画していたかどうかは不明ですが、「自称」と報じられていることから、警察に対して身元を明かさなかった可能性が高いと推察されます。身分証明書を持っていなかった、あるいは提示を拒否した結果、「逃走のおそれあり」と判断され、逮捕に至ったと考えられます。


筆者のスタンス:懐中電灯に“トゲ”は必要か?

私個人としては、懐中電灯にトゲトゲが付いていないほうが安心です。そのため、ストライクベゼルが標準搭載されたモデルは意識的に避けています。

実際に米国メーカーのSUREFIRE製品の中には、自己防衛を前提とした「ディフェンダー」シリーズといったモデルも存在し、「護身用として持ち歩いています」と明言しているレビューも見られます。

しかし、こうした用途は、あくまで米国的な事情に則ったものであり、上述のサイトの事例を見ても明らかである通り、日本国内の法体系や治安環境に適合しているとは言い難いのが現状です。

なお、市販されているストライクベゼルの中には、プレーンベゼルのライトに後付けできるタイプもありますが、これはおそらく室内観賞用として楽しむことが前提なのでしょう。


結論:「使えるから」と「持っていい」は別問題

タクティカルライトは確かに優れたツールであり、法執行官などが職務の中で使用するのであれば、極めて合理的な選択です。しかし、一般市民が護身具として常時携行するには、リスクと誤解があまりにも多すぎます。

トゲ付きの懐中電灯を持ち歩くという行為は、日常生活においては“異物”であり、時に法的な問題すら引き起こしかねません。今一度、ライトの“用途”について再考することをおすすめします。

カンデラパワーとファイヤパワー “護身具としてのライト”という幻想

現実問題として、たとえ1000ルーメンを超える高出力の懐中電灯で相手の視界を奪ったとしても、相手が戦闘モードに入っていた場合、効果があるとは限りません。

暴力的な人物の中には、テストステロンの分泌が著しく、また興奮時のアドレナリンによって恐怖や痛みを感じにくいタイプも存在します。そうした相手に向かってトゲ付きライトを構えることは、かえって挑発と取られ、事態を悪化させる恐れすらあります。

実際、警察官が駆けつけた際に、「そんなものを持ち歩いていたあなたにも非がある」と注意されるケースも十分に考えられます。

──筆者がストライクベゼル、ひいては「ライトで護身」という発想に慎重な理由

強力なタクティカルライト──たとえばSUREFIREに代表されるような製品──が護身具として活用されるのは、主にアメリカ国内での事例に限られていると考えています。

本来、ライトの役割はあくまで「補助的な手段」であり、銃を持った警察官が対象者を幻惑させることで一時的な隙を作り出し、その隙により決定的な別の手段を行使する、というのが基本的な使い方です。

すなわち、「カンデラパワー(光による照射力)」と「ファイヤパワー(致死的な戦闘力)」──この非致死性と致死性の違いを明確に理解したうえで用いなければ、護身のつもりがかえって自らを危険にさらす結果になりかねません。

銃を持てない日本の市民は、ライトだけではどうにもならないのです。

また、相手を刺激して逆上させてしまい、事態をさらに悪化させる危険性すらあると筆者は考えています。

結論として、日本国内において「懐中電灯一本だけで護身を図る」という発想には、非常に危うさが伴うと感じています。

護身の方法にはさまざまな選択肢がある中で、筆者はライト単体での有効性には疑問を抱いているのが正直なところです。


日本では理由なく「懐中電灯」を持ち歩くと逮捕されるのか?

そして近年、懐中電灯が警察から注目されるようになった理由のひとつは、タクティカルライトの流行により、トゲ状のストライクベゼルが装備される製品が一般にも普及したことにあります。これにより、懐中電灯自体が「武器に準じるもの」とみなされる傾向が強まったのです。

先述のように、単に照明器具としての目的から直接、相手に打撃を与える武器としての側面を強めたのがタクティカルライトです。

このような流れは、ある意味で「タクティカルライト・ブーム」がもたらした副作用とも言えるでしょう。

ただし、こうした見方は今に始まったことではありません。たとえば、金属製で長さのあるマグライトのような製品は、以前から「鉄パイプのように使える」として警察から問題視されることがありましたし、米国警察ではそれを警棒代わりに使って被疑者を殴打したのが社会問題になりました。

マグライトの場合、特に3セルのような長尺モデルは、その重量と構造から「凶器性がある」と判断され、軽犯罪法違反に問われたケースがいくつか報告されています。

実際に取り締まりを受けた方のブログなどを読むと、「これは警棒でしょ」と警察官から指摘された事例が存在するようです。

たとえば、車内に3セルのマグライトを常備していたことで拘束されたという報告も確認されています。

筆者もかつてマグライトを所有していましたが、現在では「一般人が使用するにはリスクが高い」と判断し、使用を控えています。

このように、懐中電灯を所持しているだけでただちに違法となるわけではありませんが、見た目や構造によって「鉄の棒」と見なされる点が問題となるのです。

軽犯罪法では、「正当な理由なく鉄棒その他を所持すること」を禁じており、これは元々特殊警棒などを対象にした条文ですが、実際には適用範囲が広く、懐中電灯もその対象となり得ます。

また、日本の警察がマグライトに敏感な背景には、アメリカの警察が実際にそれを制圧用具として使っていたという事実が広く知られていることも関係しているとされています。

一方で、日本の警察官も日常的に長い懐中電灯を携帯している場面が、警察密着番組などで確認できますが、それは「公務」としての正当性が担保されているからです。一般人の所持とは別の扱いになります。

このように、長尺の懐中電灯、ストライクベゼル付きのライトは、所持しているだけで軽犯罪法違反とされる場合があるため、車内への常備や外出時の携帯は避けるのが賢明だと筆者は考えています。

筆者自身も、現在はミニマグ以外のマグライト製品を選択肢から外しています。

実際の取り締まりでは、違反とされるか、あるいは厳重注意で済むかは、現場の警察官の裁量による部分が大きいのが実情です。

「さじ加減ひとつ」という表現は決して誇張ではなく、軽犯罪法の運用はその場の判断に大きく委ねられています。上司の許可を得る必要もなく、警察官の裁量で、たとえば所有者に始末書を書かせて任意提出・所有権放棄で済ませる対応も実際に存在します。

なお、この問題はマグライト製品だけに限ったことではありません。たとえば、オーム電機など国内メーカーの金属製・長尺の懐中電灯にも同様のリスクがある点に注意が必要です。

懐中電灯が侵入盗の道具と見なされる現実

ところが、軽犯罪法以外にも懐中電灯の持ち歩きに関係する法律があります。

先日、いわゆる『警察24時』を見ていたところ、侵入窃盗の“三点セット”として、バール・マイナスドライバー・懐中電灯が紹介されていました。つまり、空き巣や窃盗犯が懐中電灯を悪用している現状があるため、警察官としては、一般市民がライトを携帯しているだけでも疑いの目を向けざるを得ない状況にあるのです。

その点から察するに、とりわけ、警察官の視点から見て最も不審なのは、「懐中電灯を隠し持っている人物」です。さらに、その人物が身分証明書を所持していない、あるいは所持していても提示を拒否した場合には、疑いは一層強まります。

この問題を象徴する出来事が、インターネット上でも話題となった「懐中電灯を持っていたことで逮捕された」という事案です。


夜間の散歩などでは懐中電灯は「隠さず」「点灯して」携帯がベスト

懐中電灯を日常的に持ち歩く際には、「隠し持たない」ことが最も重要です。夜道で使用する場合には、最初から点灯させて堂々と手に持つことで、警察官に余計な疑念を抱かせることを避けられます。

筆者としては、これこそが真の意味での「防犯・護身のためのライト活用」だと考えています。そもそも、暴漢に対抗するためにライトで打撃を与えるような使い方を想定していないため、攻撃用途を意識させるストライクベゼル(ギザギザの付いた先端)は不要です。マグライトのような長くて重いタイプも、携帯性や誤解のリスクから避けるようにしています。


地域や対応警察官による違いも無視できない

軽犯罪法の運用は現場の警察官の裁量に大きく委ねられています。そのため、地域によって対応に差があるのも事実です。

例えば、東京・秋葉原では、刃渡り6センチ未満の小型ナイフであっても厳しく取り締まられる傾向がありますが、地方では「できれば持ち歩かないようにしてくださいね」と軽く注意されるだけで済むこともあります。


結論――実用できないライトには手を出さない

筆者自身は、攻撃的な印象を与える懐中電灯――とくに先端にトゲのあるタイプを日常的に持ち歩くことはありませんし、車にも積みません。可能であれば、メーカーはストライクベゼルを着脱式にして、使用者が用途に応じて選択できる設計にしてほしいと考えています。

たとえば、マグライトの「マグタック」シリーズはそのような考え方を反映した製品です。しかし、その性能に魅力を感じながらも、トゲの存在が気になって購入を見送った経験が何度もあります。頭に浮かぶのは、「職質」「連行」「取調べ」「土下座」「『運が悪いと思ってあきらめて』」といった一連のリスクです。

「家の中で飾っておく分には問題ない」とする意見もありますが、実用できない道具を購入すること自体に抵抗を感じてしまうのが、筆者の本音です。