画像は日本テレビの当時の放送から引用
僕が飛行機、それも特にヘリコプターにハマったきっかけは、間違いなく『エアーウルフ』だ。
1984年から86年にかけて日本テレビで放送されていた海外ドラマ『超音速攻撃ヘリ・エアーウルフ』。あれを観てからというもの、ヘリコプターは僕の中で「空を飛ぶ乗り物」の頂点に君臨し続けている。いや、もしかするとファミコンの『1943』も影響あったか?……いやいや、やっぱりエアーウルフだ。
ちょうどその頃、映画『トップガン』も大ヒットしていたけれど、僕はなぜかあまり惹かれなかった。理由はシンプルだ。戦闘機なんて滑走路や空母がないと動けないけど、ヘリはどこにでも降りられる。ホバリングもできる。何よりエアーウルフは離陸してすぐにマッハ(ワンプラス)を叩き出す超音速ヘリ。F-14なんて相手じゃなかった。
砂漠の中の秘密基地。孤独で影のある主人公。陽気な老人に、キザなCIAエージェント、悪魔的な天才博士(笑)、謎の太陽弾(笑)、そして毎回のように登場するエアーウルフに匹敵するハイテク兵器を操る敵たち……。子どもだった僕には、どれもこれも眩しくて仕方なかった。
思い返せば、80年代はとにかく「空を飛ぶ乗り物」が大流行していた時代だ。映画やアニメ、漫画、どれもパイロットものが賑わっていた。1985年には漫画『エリア88』がOVA化されたのも印象的だった。あれ、できればテレビアニメでやってほしかったなあ……。
ただ、『エリア88』のOVA版は結末がちょっと切ない。主人公・風間真の幼なじみで宿敵の神崎は、シンとの空中決戦で果てるわけでもなく、日本警察に逮捕されてあっけなく幕を閉じる。世界征服を企んだ男の最後としては、ちょっと寂しすぎた気がする。
とはいえ、制作側もたぶん続編の構想はあったんだろう。出所後の神崎がどうなるのか、とか。まあ、ホリエモンだって1年9ヶ月で出てきたし。けれど、きっとOVAの売り上げが続編企画にストップをかけてしまったのだろう。惜しかった。
Contents
エアーウルフのプロローグ(ネタバレ)
【これが『エアーウルフ』の始まりだ!──悪魔の天才と超音速攻撃ヘリ】
アメリカ中央情報局(CIA)が開発した最新鋭の超音速攻撃ヘリ『エアーウルフ』。上院議員を招いて行われた性能試験中、まさかの事件が起きた。
なんと、開発者にして悪魔的天才・モフェット博士が裏切り、機体ごと奪取! そのまま北アフリカ某国へ逃亡してしまったのだ。
当然、アメリカ政府も黙っていられない。即座に奪還作戦が発動され、白羽の矢が立ったのは、元アメリカ陸軍航空隊パイロットのストリングフェロー・ホーク。今は民間のヘリ操縦士として静かに暮らしていた彼と、その義父のような存在である相棒ドミニク・サンティーニが任務に挑むことになる。
北アフリカでのミッションは見事成功。ホークたちはエアーウルフ奪還に成功する。
──だが、代償は大きかった。ホークの恋人でありCIA諜報員でもあったガブリエル・アデマールが、モフェットの残忍な拷問によって命を落としてしまったのだ。
復讐に燃えたホークは、エアーウルフを駆ってモフェット博士を追う。博士の武器はたった一丁のリボルバー。しかし、相手は最新鋭の超音速攻撃ヘリ。火力差は歴然……だが、モフェットも開発者。エアーウルフの唯一の弱点である機首の給油プローブの隙間を狙い撃つ。しかし銃弾はボロン製の装甲に弾かれ、最後はホークの放ったミサイルがモフェットを吹き飛ばした。
復讐を果たし、エアーウルフをアメリカへ持ち帰ったホーク──だがここからが物語の本番である。
ホークはなんと、エアーウルフを砂漠地帯に隠してしまう。
「兄の安否を教えろ! それまでは渡さない」とCIAに条件を突きつけた。兄はベトナム戦争で行方不明のままだった。
国家機密を隠匿したのだから、本来なら即逮捕案件。しかしCIA特別作戦部長アークエンジェルは考えた。
「エアーウルフを操縦できるのはホークしかいない…」
そこでCIAは取引に応じる。情報網を総動員してホークの兄の行方を追う代わりに、ホークには非正規エージェントとしての身分保証=非逮捕特権を付与。FBIの手も届かない。合法的にアウトローな存在となったホークは、CIAの密命を受け、ドミニクと共にエアーウルフで次々と危険な作戦に挑んでいくことになる──!
登場人物の紹介
『エアーウルフ』登場人物&名物紹介──このクセ強キャラたちが最高だ!
■ストリングフェロー・ホーク(主人公)
まずは何と言っても主人公のホーク!「ストリング」は楽器の弦、「フェロー」は仲間とか演者って意味。名前からしてちょっとオシャレ感ある。
ホークを演じたのはジャン・マイケル・ビンセント。この人、とんでもない酒豪で、撮影中も飲んでたとか…。本編でも飲酒してるシーンが妙に多いし、顔がいつも赤い。リアルに飲んでたんだな、あれは。
残念ながらその酒癖が祟って1996年に飲酒運転で大事故、重い後遺症を負ってしまう。その後も飲酒絡みで逮捕歴があり、2019年に波乱万丈の人生を閉じた。
80年代当時は『アーノルド坊やは人気者』のゲイリー・コールマンやダナ・プラトーの転落も話題になったけど、あの時代のスターの晩年はなぜこうも悲劇的なんだろうか……。
■ドミニク・サンティーニ(陽気な相棒)
ホークが働く小さなヘリ運送会社の社長にして、義父のような存在がドミニク。演じたのは名優アーネスト・ボーグナイン。
年齢的には60代だが、ホークは敬語一切なし。ファンの中には「ホークみたいに職場で先輩にタメ口きいたら殴られた」なんて人も(笑)。
エアーウルフでは副操縦士兼整備士。何かあると「メイデー!メイデー!」と叫ぶのが定番。でも国家機密の極秘ヘリでメイデー連呼して大丈夫か?
ホークは操縦中にやたら後ろを振り返る描写があるけど、ヘリじゃ後ろ見えないからね。ファンの間では「高齢のドミニクが生きてるか確認してる説」が半ば公式設定になっている。
ホークが「ターボ!」と叫び、ドミニクが「ガハハ!まっかせなさーい!」で急加速、そのGでじいちゃんが一瞬昇天しかけてるかもしれない。
そんなボーグナインは2012年、95歳の大往生まで役者として活躍し続けた。すごい人生だ。
■ケイトリン・オシャネシィ(女性メンバー)
途中から加わる紅一点のケイトリン。演じるのはジーン・ブルース・スコット。男勝りの快活キャラで、シリーズに新しい風を吹き込んだ存在。
日本語吹替の声優はあの戸田恵子さん!アンパンマン、ショムニ、スカリー捜査官…今思うとすごい組み合わせだ。
■“アークエンジェル” マイケル・コールドスミス・ブリッグス三世(CIA上司)
白スーツに白眼帯のインパクト抜群のCIA幹部。コードネーム「アークエンジェル」。
この人の存在がまた物語を面白くしてくれる。苦労人であり、ホークとの駆け引きも見どころだ。
■エアーウルフのテーマ曲
そして忘れてはいけないのがテーマ曲!
これがなければ『エアーウルフ』は成立しないと言っていいほどの名曲。当時の日テレのバラエティ番組でも、ヘリが出るたびにBGMに使われていた。
ただ、時々バカなスタッフが『トップガン』のテーマを流して「いや違うだろ!」と突っ込まれていたらしい(笑)。
【エアーウルフは現実には存在しない──でも夢はある!】
さて、現実の話をしておこう。
結論から言うと──エアーウルフみたいな軍用ヘリは現実には存在しない。残念ながら、だ。
アパッチやコブラといった攻撃ヘリはいまも現役だが、実は近年では「戦闘ヘリ不要論」が強まっている。歩兵の肩撃ちミサイル(MANPADS)や無人機(ドローン)の普及で、戦闘ヘリの優位性は揺らぎつつあるのだ。
こうして「戦闘ヘリ」というジャンル自体が、徐々に時代遅れになってきてしまった。今後は、多用途の輸送ヘリに武装を追加して使うスタイルが主流になっていくのではないかと言われている。
──いや、でもさ。夢のない話ばかりしてもつまらんやろ?
だからこそ、エアーウルフの世界に戻ろう。
■エアーウルフの「ボロン装甲」
エアーウルフの機体は「ボロン」素材でできている設定だ。これは実際に存在する防弾素材の「ボロン鋼(ホウ素鋼)」がモデルだろう。
ホウ素を微量添加することで強度と耐弾性を上げるこの素材、軍用車両や一部の航空機にも使われる。ただ、エアーウルフのように全面ボロン装甲なんて現実には存在しない。
■エアーウルフの「超音速飛行」
作中では離陸後すぐマッハ1超えなんて描写が普通にある。だが現実のヘリコプターは、そもそもローターの構造上、音速突破は無理ゲーに近い。
例えばヨーロッパの実験機『Eurocopter X3』ですら最高430km/h(約267mph)が限界だった。
ティルトローター機のオスプレイですら最高約500km/h弱。ジェット戦闘機みたいにマッハで飛ぶヘリは、現代の技術でも夢のままだ。エアーウルフは完全にSFの産物なのだ。
■レーザー兵器は実用化が近い!?
ただし希望が全く無いわけではない。
エアーウルフの続編『復讐編』で登場するレーザー兵器は、実際に米海軍が2015年に高出力レーザー砲を実験・成功させている。大型機に積むタイプのヨウ素レーザーなども試験されてきた。
しかも1発あたりのコストは数百円! これは夢の未来兵器が現実に近づいてきた数少ない分野かもしれない。
【エアーウルフの「亡霊プログラム」と続編『復讐編』】
さて、物語の後日談も触れておこう。
エアーウルフの開発者モフェット博士は、自分が死んだ後でも機体が反乱を起こすよう「亡霊プログラム」なる謎の仕掛けを残していた。SFらしい展開だが、当時の少年心にはめちゃくちゃワクワクしたものだ。
そして迎えた『新エアーウルフ 復讐編(シーズン4)』──
ここから、シリーズは迷走を始める。主人公はホークの兄・セント・ジョンに交代。
だがこれがまた薄味で…。ホークと比べるとあまりにも都会的で軽すぎた。
さらにスタッフは無茶苦茶やらかす。
ドミニクは冒頭で爆死、ホークは植物状態、ケイトリンは完全に消去……あの温かいチーム感が一瞬で崩壊してしまった。
加えて予算不足で、シーズン1の空中戦シーンの使い回しばかり。子ども心に「これ、もうエアーウルフちゃうやん!」と叫んだ視聴者は多かったはずだ。
それでも、結局2週に一回くらいは見ててたけど、気づいたら放映終了しとったわ……。
そんな切ない記憶を持つファンも多いはずだ。
【2015年──ついにブルーレイBOX発売!】
2015年12月25日──クリスマス当日、ついに奇跡が起きた。
NBCユニバーサル・エンターテイメントから『超音速攻撃ヘリ エアーウルフ コンプリート ブルーレイBOX』(品番GNXF-1984)が発売されたのだ!
最高のクリスマスプレゼントだったわ。
待ちに待った『エアーウルフ』の高画質完全版。ファンなら狂喜乱舞。
──ただし!
タイトルに「コンプリート」とあるけど、実際はシーズン1~3までしか収録されていない。
そう、ファンの間で物議を醸したシーズン4(復讐編)は今回も未収録。
結局ブルーレイでも復讐編はハブられた。まぁ…あの内容ではな……。
そもそもシーズン4は、制作会社も変わっていて権利関係が別になってる。
シーズン1~3とまとめてパッケージにするには、権利の壁があるわけ。
実際、シーズン4は日本国内ではいまだにDVDも未発売のまま。
シーズン1はDVD化されたのに、復讐編はお蔵入り状態が続いてる。商業的な失敗作の末路は厳しい……。
ただ、2020年現在ならネット配信で視聴できたり、海外版DVD・ブルーレイを個人輸入で買ったりする手段はある。観ようと思えば観れんこともない時代になったのは、まぁ救いである。
──ま、そんな現実的な話はさておき。
やっぱりエアーウルフはロマンの塊だな。
砂漠の秘密格納庫から発進し、超音速で大空を駆け抜けるその姿は、今でも多くのファンの心を掴んで離さない。
かくして──ホークとドミニクは、伝説のスーパーヘリ・エアーウルフを駆って、今日もどこかの空を飛んでいるのだ!
またな、相棒!