ロッド・マチャドのお笑い航空学校 初稿 2006年2月10日 Fri 14:58:27
さて、マチャド・アビエーション・スクールについて少し語っておきたい。
マイクロソフト・フライトシミュレーターに付属する教習マニュアルを初めて手に取ったときの衝撃は、なかなかのものだった。厚さは卵焼きほど、いや、もうちょっとあるかもしれない。重さと威圧感で、「これで殴られたら死ぬんじゃないか」とすら思ったし、読まずとも目眩を起こしそうな雰囲気を放っていた。
ところが、ページをめくってみると雰囲気は一転。内容は堅苦しいマニュアルというよりも「ロッド・マチャドの愉快な空の教室」といった印象だった。アメリカンジョーク全開で、陽気な講義が繰り広げられている。ジョーク好きの日本人ならハマるかもしれない。
が、もし本人から「マニュアルは読んだ?」と尋ねられたら、つい「犬が食べました」と答えてしまいそうになる。いや、ほんとに。
マチャド氏の講義は、アメリカ人らしい気さくさと明るさが魅力だ。彼の教え方は、飛行機の操縦が「難しいこと」ではなく、「楽しいこと」だと教えてくれる。そういう意味では、この分厚い冊子も「ちょっと小粋な西洋ジョーク集」くらいの気持ちで読むのがちょうどいい。もちろん、実際に犬に食べさせるつもりはない。
とはいえ、実際の操縦知識を得るうえで、自分はネットの情報にかなり助けられた。FS98がヒットした時期には、初心者向けのサイトが数多く生まれ、その中には今も現役で残っているものがある。FS2004になっても基本的な操作方法は変わらず、計器飛行の手順などは、そういった昔のサイトの情報でも十分通用する。
実際、ネットの個人サイトの方が親切で分かりやすいことが多く、付属マニュアルよりずっと有用だったりする。特に初心者に対する気遣いが感じられる作りになっている。
そんな中、MSから新作「FSX」の発表があった。Windows Vistaを前提にした設計ということで、ようやくかと思ったが、要求スペックを見て軽く絶望。これは、中古の数年落ちPCじゃまず動かないだろう。しばらくは2004でお茶を濁すしかなさそうだ。
そもそもFSシリーズ(に限らずフライトシム全般)は、いわゆる「目的」が存在しない。ミッションやクリア条件のようなものはなく、自分で目標を決めて遊ぶスタイルだ。だからこそ、たとえば、地上からは見えない「空の向こう」に何があるのかを確かめに行くことだって、立派な目的になり得る。
そういえば、日本の映画「七人のおたく」にも、FSで空を飛ぶシーンが印象的に使われていたことがあった。ゲームの中のフライトが、彼と彼女を繋ぐ時間の演出として使われていた。静かながら、とても情緒的なシーンだった。
ちなみに、FS98時代はレイセオン・ビーチのシャイアン全日空仕様や、ANA B747、ANHのヘリなど、無料のアドオンで再現された機体をよく飛ばした。
札幌市の上空、大通り公園やテレビ塔、豊平川まで映っている。こうした高精細な機体や地形、リアルな雲や青空も、ほとんどがネット上で無料配布されている。作ってくれた方々には本当に頭が下がる。
FS98は今となってはレトロゲー扱いだが、軽さゆえにノートPCでも快適に動く。2003年には廉価版が出ていたし、今でも入手は可能だ。空の色がやや紫っぽいのが気になるが、「BlueSky」というフリーソフトを入れれば、気持ちのいい青空に変えられる。雲もリアルにしたければ、雲生成ソフトを導入すればいいし、日本の地表テクスチャも公開されている。これらを導入すれば、空も大地ももっとリアルになる。
FSの世界には、飛ぶ理由なんて山ほどある。たとえば「虹のブリッジをくぐり抜けて、雲に手が届く距離まで行ってみたい」。それだけで、空を飛ぶ理由としては十分だ。
最後に、どこかの米国在住の日本人教官のサイトで読んだ実話をひとつ。
日本人留学生がフライトスクールに入ってきて、勝手に滑走路に出て、無許可で離陸し、好き勝手に飛び回って帰ってきた。当然教官にも仲間にも怒られるが、本人はどこ吹く風。あっけらかんとした態度のまま操縦士資格を取得し、今は日本で県警だか防災航空隊だかに所属して、ヘリのパイロットをしているらしい。
……正直、日本の空はまだまだ奥が深い。
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