比較的シリーズ中盤から終盤、FBI捜査官モルダーとスカリーが手にしていたのは、ストリームライト社製のタクティカルライト『スコーピオン』であった。
このライトはLAPD、つまりロサンゼルス市警の要求スペックをもとに設計されたもので、最大出力は79ルーメン。現代のLEDライトと比べれば数値的に物足りないが、キセノンバルブ特有の暖色系の発光は、むしろ闇の中に溶け込むという点で利があった。まさに、暗部の真実を追う者の手にふさわしい光である。
ロス警察(LAPD)のスペックにしたがって設計され、79ルーメンの明るさを持つ。スコーピオンのボディにはラバー外装が施されており、見た目こそ玩具のようだが、その実用性は侮れない。グリップ感は良好で、冬季の夜間でも素手で扱えるという利点を持つ。ゴム製の外装は冷気を伝えにくく、片手操作も苦にならない。つまり、拳銃を構えたままでもスイッチにアクセスできる設計になっている。

見てのとおり、ヘッドは金属、グリップはラバー。合理性に徹した設計である。

いいですね。これ。いいですねじゃねえよ、毛深いよお前。
一方で、ライバルとされたのが、SUREFIRE社の6P。法執行機関向けライトとしてはこちらも定番であった。バルブ交換の容易さや堅牢性ではシュアファイアに軍配が上がる。ただし、コストの面ではスコーピオンが圧倒的に優位に立っていた。

予備バルブが本体に収納されているという点も見逃せない。バルブホルダーの裏側にあらかじめ1本格納されているのだ。バルブ交換が必要になるような非常時でも「持っている」という事実が心理的な安定につながる。

もっとも、屋外での交換はスムーズとは言えず、暗闇での作業では相棒に照らしてもらう必要がある。その点、「相棒っていいよね……」などと情緒的な感想を漏らしたくもなる。

ヘッド内部にはスプリングが仕込まれており、これは落下時の衝撃吸収を目的としたものと推察される。バネといえば、80年代のゲーム文化における都市伝説を想起させる。「某名人の16連射はコントローラーにバネを仕込んでいた」という怪情報に信憑性を感じてしまった筆者のような青二才もいた。

レンズはポリカーボネート製(品番 ST850013)で、キセノンバルブの発熱には耐性があるが、連続点灯には注意を要する。これはLEDではない。瞬間照射と再点灯を繰り返すスタイルが基本であり、「LED感覚で常時点灯」という使い方は機材寿命を縮める愚行に他ならない。

ライバルであったSUREFIRE(シュアファイア)6Pは実用品でありながら、その仕上げの良さは美術品に近い。後期モデルではグリップ部のエッジも柔らかく加工され、手に馴染みやすくなった。
対してスコーピオンの初見の印象は、お世辞にも高級感があるとは言えない。
購入当初、ゴムのにおいが気になった
開封直後の「ゴム臭」は衝撃的で、半年ほど使用を続けてようやく緩和された。温水で洗えば早く取れたかもしれないが、ラバーへのダメージを恐れて洗浄は見送った。

とはいえ、時間が経過すれば、当然ラバーは劣化する。人間の皮脂との接触により、徐々に外装は崩れていく。手に馴染む代償として、寿命が縮まっていく――それがこの素材の宿命である。
Scorpionの半押し点灯は病みつきになる
半押し点灯機能もスコーピオンならではの特徴である。内部スイッチのテンションとラバー外装の弾性が相まって、「グニッ」という独特のフィーリングを生む。SUREFIREでは得られない感触であり、このクセになる押し心地に魅了された者も少なくない。

スイッチは内蔵式となっており、これは利点でもあるが、初見ではやや戸惑うだろう。機構に慣れていなければ「これ、どうやって点けるんですか?」と尋ねられても不思議ではない構造である。
ともあれ、Xファイルの世界において、このスコーピオンはただの懐中電灯ではない。ドラマの象徴的アイテムであり、暗闇に踏み込むモルダーとスカリーの手元を、黙々と照らし続けてきた小さな相棒であった。
後任のドゲット、レイエスもこれを継承しており、劇中における露出度は群を抜いている。製品としての役割を超えて、ひとつの“記号”と化したライトなのだ。
なお、現在ではLED版も登場しており、利便性は大幅に向上している。新モデルではヘッドが六角形のヴェゼル形状となっており、転がり防止に配慮されている点も見逃せない。