1993年にアメリカで放送が開始された『Xファイル』。本作の象徴のひとつが、モルダーとスカリーの手に握られるフラッシュライトである。
捜査の現場では常に薄暗く、彼らが手にした光の一筋が、しばしば真実への唯一の導きだった。
本作において、モルダーとスカリーは闇夜に潜む真実を求めて、ありとあらゆる不気味な家屋や山奥のモーテル、ぬかるんだ森の中をフラッシュライト片手に駆けずり回ってきた。
人間の容疑者はもちろん、宇宙人、怪獣、怪物、さらにはどこの伝承から迷い出たのかも分からないUMA(未確認動物)まで、二人が照らした「光」の先には、毎回得体の知れない何かが存在した。
この作品の概要解説、いまさら必要だろうか?(Xファイルの主な概要は以下で(比較的真面目に)詳しく解説しています)
そんな彼らの姿に胸を熱くした1997年頃、僕たち視聴者も、部屋の電気を消してテレビの前に座り、片手にひまわりの種、もう片手に懐中電灯、さらにお好みでタナカのP226やP228という完璧な装備で、モルダーとスカリーに精神的同行を果たしていた、はずだ。
「いらない何も、捨ててしまおう」──日本放映時の主題歌、B’zの『LOVE PHANTOM』が、あのころのXファイル的ライフスタイルを見事に代弁していた。
あの断捨離系サイキックソングは、何もかも捨てろ捨てろと叫ぶくせに、今なお僕の脳内BGMから離れてくれない。
というわけで、今回はそんなモルダーとスカリーの捜査に欠かせなかった“もうひとつの主役”、懐中電灯(フラッシュライト)にスポットを当てたい。ビカッとな。彼らの手元を照らしていたあの鋭い光こそが、ストーリーの緊張感を支えていたと言っても過言ではない。
懐中電灯は、ひまわりの種と並んで、日本国内で合法的に持ち歩ける数少ない「小道具」のひとつ(※ただし最近はそうとも言い切れないので注意が必要)。防災面でも極めて有用なツールであり、地震や台風だけでなく、近年頻発する大雪による停電など、実際の危機にも役立つ存在だ。
筆者自身、非常時に備えて“完全武装”を施している。具体的にはこうだ──SUREFIRE(本格派タクティカルライト)、ひまわりの種(精神安定食)、そしてハローキティ防災ずきん(ファッションと安全性の両立)。このトリプルアーマーこそが現代を生き抜くための最低限装備である。
きゅっ(ずきんの顎紐を締める)。
ママーッ!(驚愕)
──そんなテンションで、懐中電灯の話、続けていこう。
シーズンを重ねるごとに、そのライトは進化を遂げていく。小型化しながらも、出力は向上。つまり、より小さく、より明るく、よりタクティカルに。この変遷は、懐中電灯というアイテムが単なる小道具ではなく、物語の進行とキャラクターの在り方にすら関与していたことを意味している。
そして、時は流れ、2016年の『Xファイル』リブート版。そこに登場したフラッシュライトは、過去のものより一回り大きく、そして決定的に「変わって」いた。キセノン(ゼノン)バルブからLEDへの完全移行。この変更は、光源テクノロジーの歴史における重大事件と言っていい。LEDによって光量は飛躍的に向上し、消費電力は抑えられ、発熱も軽減される──ついでに、電池も長持ち。これはまさに「文明の勝利」だ。
モルダーがFBIを自ら退職し、兵士殺害の嫌疑をかけられて逃亡し、その後失踪、復帰、スカリー宅への引きこもり、宇宙人特化SNSの個人運営、アフィリエイトで生計を立て(嘘です)、最終的にスカリーのヒモ化を経て孤独に生きるまでの13年。その間に、ライトはとんでもなく進化していたのだ。
ともあれ──モルダーとスカリーが劇中で使ってきたフラッシュライトについて、その変遷をシーズン登場順に追っていきたい。この記事は当初、30,000字越えの超特大記事として書かれたものであり、現在の原稿段階で22841文字(2025年4月現在)。
つまり、本気で読み切るには、パケ死の覚悟が必要ということだ。もしあなたが、フラッシュライトという小道具の歴史に深く浸りたいという奇特な趣味の持ち主であれば、ぜひこの旅に付き合ってほしい。楽天モバイルの最強プランはいいぞ。
──懐中電灯とひまわりの種のご用意をお忘れなく。
なお、この記事では批評および研究上必要であることから、日本国の著作権法上で許された引用の条件に則り、Twenty-First Century Fox, Inc.作品『Xファイル』から典拠元を示した上で複数の画像の引用を行っております。
Contents
『X-ファイル』の初期に登場した強力ライト『Maxa beam』
シーズン1でとくに出番の多かったのが、とても巨大でごついやつ、いまや四半世紀前の懐中電灯ながら、まだまだ現役顔負けの出力を誇る伝説の一灯──Maxabeam。懐中(ふところ)に入る電灯どころか、これは誰が見てもサーチライトである。
その名も、マックス12,000,000 CandlePower!そう、1,200万カンデラですよ。12メガカンデラ。

暗い森や、ウサンくさい研究施設の闇を切り裂いて探るモルダーとスカリーの手にはいつもMaxa beam。画像の典拠元 『Xファイル』 (C) Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC.
まず、そのサイズ感。スーツのポケットなんぞに入るわけがない。
まるで「ポケットにミカン入れてきた」くらいの感覚で語るには、あまりにも無理がある。何しろこいつ、重さ約4キロ。持って走れば腕がパンパン、肩にかければ狙撃されかねない存在感。
しかしこの巨体、ただの重しではない。
中にはなんと75ワットのキセノンランプが搭載されており、最大2キロ先までの遠距離照射が可能という圧倒的パワー。闇夜の森どころか、谷向こうの幽霊屋敷の屋根裏までフル照射できるレベル。ぶっちゃけ捜査用というより、ほぼほぼ……ゆ、UFO迎撃…用?
参考動画はこちら: 👉YouTubeで暴れる12,000,000 CandlePowerライト
そんなMaxabeamがどれほどヤバいかというと、あの映画『ジェラシックパーク』にも登場していることでお分かりいただけるだろう。そう、T-レックスすら立ち止まって「うおおおおっっっ!」って唸るレベルの光の咆哮である。もう「ライト」じゃない。これは「光害」。街の条例に引っかかりそう。
ちなみに、Xファイルでモルダーが愛用する拳銃グロック19は、フル装填でもわずか850グラム。つまり、Maxabeam=グロック約5丁分の重量。モルダーの腰にグロック、左手にMaxabeam持ってたら、もう完全に光と弾丸の二刀流だ。強すぎるぞ。
ついでに言うと、日本のお巡りさんも、東京オリンピックの警備限定で「グロック45」を試験的に導入していたらしい。これは9ミリ口径ながらもグロック19サイズのコンパクトスライド、つまり威圧感バッチリの都会派グロックである。ちょっとモルダーごっこできるな。
東京五輪警備で警視庁自動車警ら隊に配備された新型けん銃「GLOCK45」の一斉回収は『二つの不安要因が原因』との一部指摘あり
さて、そのおそるべきMaxabeamが活躍するのが、『Xファイル』シーズン6の第13話──
あの湿気100%、海洋ホラー回として名高い『アグア・マラ』であります!
このエピソード、舞台はフロリダの嵐の夜。停電したアパートの中で謎の“水系モンスター”が人々を襲い、ヌルヌルした絶望感が全編を覆う中、モルダーとスカリーは光を手に捜査を開始。
だがそこで我々は目撃する。
マクサビーム、屋内でもガンガン点灯。
照射距離2キロのライトでアパートの廊下を照らす姿に、「遠慮って概念はないのか……!」と視聴者は感動すら覚える。
しかもあの狭い家の中で、あんなデカブツを両手で構えて捜索する姿。室内灯完全無視の光のイカれっぷり。
まさに、電気代の概念を捨てた男と女の物語、FBI支出監査課のひと出てこいやコラア!というガチの税金の無駄遣い。
さらに、現地の保安官が持っているのはおなじみのマグライト(これもなかなかの照度)、
そしてチョイ役のキャラが持つ小型ライトも合わせて、この回はまさにライト博覧会でしたね。
いやー、なんか俺の握ってるものも熱を帯びてきたわ。ライトだぞ。
ちなみに!
スカリーのライト姿だけを集めたマニアックすぎるサイトまで存在するから驚き。
その名も:Scully’s Flashlight Photo Gallery
ここまで来ると、人類は光を持った女に惹かれ続ける運命なんだと思うしかない。
というわけで、懐中電灯がただのツールじゃなかった時代──
それは信仰、そしてロマンだった。
モルダーの片手にはグロック19、もう一方には神の雷光マクサビーム。
『X-ファイル』のシリーズ初期といえばマグライト
いま、闇を照らす使命を再び君の部屋へ。……照らしすぎ注意!まだまだ続く。

モルダーとスカリーが携行するマグライト。3-Cell CかDだ。見てのとおり、長くて重い、携行しにくい、そんなに明るくないともなれば、あまり手にしたくないものだが、モルダーとスカリーはシリーズ1において、とにかくマグライトを愛用していた。繰り返すが、支給品で仕方なく使用せざるを得なかった。画像の出典 『Xファイル』 (C) Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC.
ちなみにマグライト、全長約30cm、重量は電池込みで約700g。
180cmのモルダーでさえ、背広のポケットに入れるのは無理ゲー。
スカリーに至っては、ハンドバッグにもギリ入らん。
だがそれでも、当時は彼らの姿に憧れて、「あれ欲しい!」と全国のオタクが「鈍器ホーテ」の懐中電灯売り場に走った。
「こんなに重いのか……!」と戸惑いながらも、なぜか嬉しい。これで宇宙人が出たらいつか殴るんだ。そう決めた夜の公園でなぜか職務質問された。
その無骨なボディ、軍用でも通じる堅牢性、警察官たちにも愛され、
そして今もなお進化を続けて、LED版もリリースされているという、懐中電灯界のレジェンド。
なお、MAG社の創業者アンソニー・マグリカ氏は、製造を中国へ移さないポリシーでも知られ、その理由と製品哲学については以下の記事が参考になる……
(ただしサムネイルがアレで本当に申し訳ない)
結局のところ、シーズン1におけるモルダーとスカリーのマグライト愛というのは、ただの趣味ではなく、時代と予算と支給品というリアルの中にあった“必然”だったわけだ。
実際当時、マグライトは警察や軍隊から圧倒的に採用率が高く、FBIの二人が使っていても違和感はない。
だからこそ、彼らが懐中電灯を構えて廃墟や森を照らす姿には、「怪事件を照らし出す」以上に、「当時のアメリカのプロップ美学」すら見て取れる。
そしてその光は──
25年後の今も、我々の記憶の奥底でほのかに灯り続けている。
ビーム、オン。
マグライト――それは懐中電灯の名を借りた、もはや鈍器のような存在感である。
中でも「D CELL 6」モデル。
もうこれは懐中電灯というより、金属製の棍棒に近い。
重さ1.5kg以上、長さ50cm超え。
太く、重く、固く、そして…用途が懐中電灯に限定されていない。
「他の用途って何よ?」と聞かれれば、本記事では詳しくは書かないが、
90年代にロサンゼルスのニュースを見ていた人なら、即座に思い出すはずだ。
そう、1991年のロドニー・キング暴行事件。
ロス市警(LAPD)が装備していたマグライトが、暴行の道具として使用されたという忌まわしい記録が、
マグライト=“光の道具”というイメージを一変させた。
この事件はアメリカ中に衝撃を与え、1992年のロサンゼルス暴動へと発展。
その反省から、ロス市警では大型マグライトの貸与を中止し、代わりにペリカン製の軽量ライトを導入。
こうして、マグライトは社会的意味まで背負うプロップとなってしまった。
さて、そんな物騒な背景を持ちながらも、
『Xファイル』初期のモルダーとスカリーは、
堂々と「懐中に入らない懐中電灯」=マグライトを持って闇を照らしていた。
本来、こんなにデカいライトを手に歩くには、
「直前まで車に乗っていた」か「これから車に戻る」必要がある。
要するに、FBI本局近郊での捜査、または捜査車両ありきの装備といえる。
問題は出張時だ。
・あんなデカいライトを、出張カバンに入れて持っていくのか?
・それとも、現地支局で借りるのか?
・まさか、現地の雑貨屋で都度購入→局の経費で清算とか?
そんな、悲しくもリアルなFBI捜査官たちの経費精算攻防戦については、
別記事にてディープに語っているのでぜひそちらもどうぞ。
結局のところ、マグライトとは、
時代の光と影を映し出す一本の金属製プロップだったのだ。
単なる照明器具ではない。
それは、Xファイルという“虚構のリアル”の中で、
真実と暴力、権力と日常の境界線を揺らす、無言の語り部だった。
……と、かっこよくまとめてみましたが、
まあ、実際に持つと「重っ!!」って言います。絶対。
それもまた、懐中電灯のリアル。
◤FBI捜査官の闇夜の冒険は、やっぱりマグライト。
第12話『害虫(War of the Coprophages)』より、夜のモルダーのロマンスとライト事情。
この回は、ロマンチックで哀愁漂う冒頭から始まり、
バカバカしくも不気味な事件の連鎖へと突入していく、
Xファイル初期のスリラーとシュールという傑作構成のひとつ。
その中でモルダーが持っていたたった一本のマグライトが、
彼の性格――孤独で、執着的で、そして用意周到な変人ぶりを物語っている。
まさに「備えあれば嬉しいなマグライト」。
懐中電灯ひとつで語れてしまう、そんなXファイルの懐の深さ。
モルダーにとってのマグライトとは――
『僕にとって懐中電灯とは、暗闇を照らす道具ではなく、真実に突入する“意志”の象徴なのかもしれない。』
出典 『ある元・FBI捜査官の回顧録〜宇宙人に妹を拐われて…』
(ただし、不法侵入はやめましょう)
◤「消毒だから出てけ」→即、夜のドライブ強行。
DCにある、とあるアパートが“害虫駆除”を理由に住民へ一時的な退去を促した。
その瞬間、住民の一人であるモルダーさん(部屋番号42…)はこう思ったはずだ。
「これは星を見るチャンスだ」
(普通の人はモーテルへ行ったついでに怪しい姉ちゃん呼びます)
――ということで彼が向かった先が、マサチューセッツ州ミラーズグローブ。
いつもの「わ」ナンバーです。ラリアットレンタカー。
しかも、丘の上に車停めて一人で深夜の空を見上げる。
モルダーの、静かでちょっと切ない浪漫主義が全開になる瞬間です。
◤用意周到すぎる休日装備。
で、そこからなぜか巻き込まれていく“ゴッキー騒動”。
モルダーが興味本位で侵入した家屋で、彼が使用していたのが――
MAGLITE 2-CELL Cモデル。
長さ約25cm、単二電池2本仕様で、ちょうど「休日でもギリ持ってきてる感」がリアル。
これより長いDセル6だったら「これから一緒に殴りに行こうか」って感じだし、
逆にLEDミニだと頼りなさすぎる。
さらに驚きなのが――ピッキングツールまで持参。
休日にピッキングツール。
これ、日本なら建造物侵入+特殊開錠用具所持等の禁止に関する法律違反で、即座に逮捕されて取り調べですよ、ええ。
で、モルダーはスカリーと携帯で通話をしながら家屋に不法侵入。
いわゆる、僕はFBI特別捜査官だから非番中に興味本位で公的施設に侵入しても違法性は阻却されるものと解されていますってやつだ。
これら彼の不法行為の数々が積み上げられ、後に捜査局からの追訴につながってしまうのはご愛嬌だ。解されてねえし何がご愛嬌だ。どこの県警だよ(笑)
◤スカリーとの通話&ライト片手に突入する男。
携帯でスカリーと通話しながら、
もう片手には例のマグライト。
どんな状況?
・真っ暗な無人の家
・通話は切らず
・不法侵入状態
・懐中電灯で壁を照らす
この「通話しながら懐中電灯で照らしてる感じ」、
見てるこっちが不安になる絶妙なリアリズム。
そして、彼が照らした壁の下から――
さざめくような壁紙の動きとともに、
「何か」が蠢き出す。
そう、これがこの回のテーマ、
“得体の知れない生き物=ゴキ(ただし超常的)”。
しかもこの回、全編通して演出もトーンも妙にコメディ寄りで、
真面目な顔をしたモルダーがライト片手に笑いと恐怖の境界線をウロウロしてる。

それにしても、サイズの割に暗いのはさすが95年当時のマグライト。まあ、10センチくらいの至近距離で壁を照らすならさほど暗くもないが、周囲の暗さがまた不気味……。画像の典拠元 『Xファイル』s3 ep12『害虫』 (C) Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC.
マグライトの光に誘われるようにして、壁の中からゴキブリがワラワラと湧き出してきた……。
神経質な人間なら卒倒ものの光景だが、そこはFBI捜査官モルダー、ギリギリの精神で耐えていた。だが次の瞬間、なんという皮肉だろう、よりによってそのマグライトの電池か、あるいは電球が切れてしまうという緊急事態。
まさに絶望の闇に包まれたその瞬間、彼の口から悲鳴とも叫びともつかぬ言葉が飛び出す――『スカリー、ンゴッ、ゴキブリだあっ!……フォウッ!懐中電灯が切れたっ……!』。通話先のスカリーはさぞかし驚いたに違いない。
とはいえ、彼女は「だからマグライトの電球は切れやすいんだから、捜査に行く前に毎回交換しておけって言っただろうが!」とは怒鳴らず、冷静だ。
ンゴッ!だが、その直後、モルダーはあっけらかんと『あっ大丈夫、もう切るよ』と電話をガチャぎり。スカリーの心中は察するに余りある。
モルダーの危機を救ったのは農務省の研究者であるバンビ・ベレンバウム。その名も印象的な彼女は、政府の害虫研究施設の職員で、本人いわく昆虫フェチ。美人かどうかは見る人によるが、どうやらモルダーのツボには直撃だったらしく、彼女の話にはやたら饒舌だったのが記憶に残っている。
そして夜も明けないうちに、モルダーから再度の連絡。なんとモーテルの宿泊客が死亡したという。、スカリーはついに重い腰を上げ、モルダーの捜査応援のために緊急出動。
D.C.のジョージタウンにある彼女の自宅から、架空の町マサチューセッツ州ミラーズグローブまで、約300キロ――。稚内から網走くらいあるぞ……なんだ近いのか。…お前、どこ住んでんだよ。
いずれにせよ、さっきまで自宅でアイスを食べ、犬を洗い、拳銃の手入れ(火薬カスふきふき作業)までこなしていた非番のスカリーが、自分で車を運転して現地へ向かったというのだから、実に頭が下がる。せめてヘリでも飛ばせば……と思うが、その許可を局から得るには、まずモルダーのゴキハウス不法侵入を正当化しなければ。ミキハウスじゃねえんだから。
一方で、マグライトといえばフルサイズのCやDセルタイプが象徴的だが、実際の現場ではその出番はそう多くない。彼らが常用するのはおそらく15センチ前後の小型モデル「MINI MAGLITE」で、コートのポケットに収めて日常的に持ち歩く、いわゆるEDC(Every Day Carry)用途。
おそらく車両には3-Cell CかDを常備しつつ、ポケットにはミニマグ、というのが彼らの標準装備だろう。スカリーはさらに検視も担当するため、ペンライトの類も必需品。
つまり彼女は用途によってライトを二本持ちしているはずである。ミニマグは照射範囲こそ狭く、明るさも当時でおそらく10ルーメン程度だが、それでも当時は優れた小型ライトだったことに違いない。
筆者愛用のSUREFIRE G2X LEのローモードが15ルーメンであることを考えると、彼らの暗闇での作業がいかに過酷だったかがよくわかる。今さらながら、あんな光量でよくあれだけ突撃できていたなと感心するばかりである。
season1のFile No.21 (1X21) 「輪廻」 BORN AGAINでは、モルダーとスカリーが民家突入時にミニマグをかざしていた。ビームが良く伸びていてカッコイイ。もちろん撮影用のスモークマシンあっての魅惑的な演出である。

こちらはハリウッド血液バンクの地下を探索する「給料計算会社のモルダーと言います」さん。画像の典拠元 『X―ファイル』シーズン2第7話『トリニティ』 (C) Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC.
ミニマグを手にしたモルダーが、ハリウッド血液バンクの地下を探るシーンが登場するのは、シーズン2の第7話『トリニティ』。あの時、鋭いビームが闇を切り裂く様子が印象的で、ミニマグが果たしてその場面において、どれほど効果的に役立ったのかを感じさせてくれる。モルダーが使ったのはおそらく、単三電池2本仕様の2AAだろう。
当時のマグライトは、クリプトン球を使用していたため、照射が暗く、どうしてもダークスポットが目立ってしまう。これがまた、作品の雰囲気を一層オカルトチックに仕上げる要因となったとも言える。後にキセノン球やLEDに進化し、明るさと均一な照射範囲が改善されたものの、初期の不安定で頼りない光が、かえって作品に奇妙な不気味さを加えていたのは間違いない。
その不完全さが、モルダーやスカリーが向き合うオカルト的な状況にぴったりとマッチしていたとも考えられる。あの小さな光が照らし出すのは、明るさではなく、不確かで謎めいた世界の一端。そうした暗闇の中で繰り広げられる捜査の緊迫感を作り上げた要素として、マグライトの「頼りない光」が重要な役割を果たしていた。
逆に、シーズン中盤から登場した警察用の高出力で小型のキセノンライトが、モルダーとスカリーの捜査能力を向上させたことは否定できないが、その明るさが逆に初期シーズンの持つ独特の雰囲気を壊してしまう危険性もあったかもしれない。最新のLEDライトに至っては、あまりにも明るすぎて、時には作品に与える影響があまりにも現実的すぎるかもしれない。
それでも、最初の頃のマグライトは、作品における不可解さや不安感を引き立てるために不可欠だったと言えるだろう。実際、初期のモルダーとスカリーが活用していたマグライトは、照射能力には限界がありながらも、その「頼りない光」によって作品に独特の味わいを与えていたのだ。
マグライトと並行使用された小型軽量ライトUnderwater Kinetics SL4

画像の典拠元 『X-files』 シーズン3第21話 「 Avatar (化身) 」(C)Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC.
シーズン3第21話「Avatar(化身)」では、警察の押収車コーナーでスキナーの車を調べるモルダーとスカリーの姿があるが、注目はその装備。なんとモルダー、ちゃっかり折り畳みナイフまで所持している。もはや何を想定してんだよ。非番でもフル装備か。で、スカリーが手にしているのが『Underwater Kinetics SL4』という全長15センチほどのダイビング・ライト。海中仕様。現場は陸だが。たぶん光量と信頼性で選ばれたのだろう。

上の画像は近親婚一家を描いた「ホーム」より。こちらはモルダーが持つUnderwater Kinetics SL4の細部がくっきりとわかるベストショットだ。こう見ると結構平べったい感じがして軍用ライトっぽいね。バッテリー容量も大きそう。でも落とすとパリーんといきそう。画像の典拠元 『X-files』 (C)Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC.
本来、ダイビング用水中ライトであることから、非常に実用的な懐中電灯。クリプトン球のマグライトに比べるととても明るく、ヘッド全体から漏れる光が周囲を照らし出し、エルビス・プレスリーが42歳で死んだこともわかってしまうほど(実際はどこかで生きてると大部分のアメリカ人は信じている)照射範囲がとても広いのだ。
樹脂製でいかにも軽そう。色は各カラーあり。ポケットにギリギリ入れて持ち運びしやすそうなサイズなのもgood。
このSL4、シーズン3第22話「ビッグブルー」では、スカリーが愛犬クイークェグを連れて現地捜査にやってきた際にも使用。夜の散歩時に片手にリード、片手にライトという“夜の母親”スタイルで、湖畔をうろうろする姿が見られる。ついでにこの回、クイークェグが湖畔で行方不明になるというトラウマ展開。
さらにシーズン5第11話「KILL SWITCH」では、重要参考人の女性ハッカーが身を潜める港のコンテナハウスへの突入シーンで再登場。突入から制圧、周辺捜索まで、たびたびこのライトを使用している。耐衝撃性と耐水性に優れた業務用のライト、まさにスカリー的セレクト。彼女の本気装備には無駄がない。
で、最後に思い出したのがシーズン4第20話「スモール・ポテト(Small Potatoes)」。ここでのモルダーは、ズボンの右ポケットから例のライトをスッと取り出すという“分かってる感”全開の動作。ちょっと照れ臭そうな表情もまた良い。彼のEDC(Everyday Carry)は本当に隙がない。というかFBIの捜査官ってここまで自由装備なのかよ……。
結構、Xファイルでは登場回数の多い、息の長いライトである。
そして、お次はモルダーとスカリーがついに持ち出した小型強力な次世代型ライトをご紹介したい。
モルダーとスカリー、マグライトを捨て、ついに強力な警察向け戦術ライトを使う
ついにその時がやって来た。モルダーとスカリー、長年付き合ってきたマグライトやらダイビングライトやらに別れを告げ──いや、むしろ「そろそろ重いから限界だよな」と無言で置いてきた感すらある──ついに強力な戦術ライト、いわゆる「タクティカルライト」を手にし始めたのである。
時は90年代中盤。アメリカの警察や軍の世界で「ルーメン?高ければ高いほど偉いっしょ!目ぇ潰すっしょ!」的なノリで、ハイパワーLEDやキセノンライトがガンガン導入されていた頃である。そんな時代の風を受けて、『Xファイル』もたしかシーズン5か6あたりか。モルダーとスカリーの手元から、あのクラシックで無骨なライトの姿が、徐々に姿を消していく。
そして代わりに彼らのポケットからチラ見えしはじめたのが、2種類のピカッと光る新時代の光源。家屋の中でも地下室でも不気味な納屋でも、暗闇での捜査力がアップグレード。もう光が弱くて「ライトが切れた!ンゴッ!」なんて言わなくていい。まさに捜査スタイルのアップグレードである。
まず一本目は、旧・レーザープロダクツ社(SUREFIRE)時代の名作、「SUREFIRE 6P」。これ、当時のタクティカルライト界隈では“デフォルト装備”みたいな存在で、CR123Aリチウム電池2本仕様、アルミボディ、そして「うわっ、眩しっ!」なハロゲンバルブ搭載。約60ルーメン。今見たら「え、60?ローモードじゃん」とか思うかもしれないが、当時はこれでも革命だったのだ。
それに何より──モルダーがスッとポケットから取り出して、無言でピカッと照らすあの動作。スカリーが無駄に精密にライトを構えて、資料棚の裏を探るあの光。これぞ新世代捜査官の風格である。オカルトは追ってるけど、ライトだけはガチ。そんな時代が、ついに『Xファイル』にも訪れたのであった。
スカリーがおもに愛用するSUREFIRE 旧型6P

画像の出典 File No.604 How The Ghosts Stole Cristmas 「クリスマス・イブの過ごし方」より(C)Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC.
スカリーは懐中電灯の伝説を作ったSUREFIRE社(旧・レーザープロダクツ社)の6Pを使用。90年代中盤、SUREFIREのパーソナル・ハンドライトは法執行機関や軍隊がこぞって導入した。
旧型6Pは側面のロゴもなく、ヘッドのデザインも現行モデルとは異なっている。
ただ、少なくとも『Xファイル』が作られるより前の80年代、すでにSureFire 6Pは存在。しかし、警察機関への普及は進んでいなかったのだろうか。少数精鋭のFBI捜査官には当時から愛用されていてもおかしくはなさそうだが……。ここらへんについては当方も研究不足である。
さて、ちょっとマニアックな話になるが──90年代後半、FBIアカデミーの卒業時や、あのSUREFIREトレーニングプログラムに参加した新人たちには、なんと記念品として「G2Zコンバットライト」が支給されていたという。のちにLED化されて「G2ZL」として進化するわけだが、いやはや、卒業祝いに和英辞典をもらうより100倍うれしい。
…となると、あのFBI内でも“異端で有名”なモルダーとスカリーこそ、真っ先にSUREFIREのトレーニングプログラムに送り込まれてそうな気がしてならない。ていうか、モルダーが現地で講師陣に「いや、実戦ではこうだ」って逆に教え始めて、気づいたら“特別講師枠”になってる未来しか見えない。
とはいえ、そんなに本格派な2人でありながら、劇中でモルダーとスカリーが華麗に「Harriesテクニック(銃+ライトのクロス持ち)」をキメるシーンは、旧シリーズ通してもせいぜい1〜2回くらい。むしろ2016年のリバイバル版でようやく本気出してきた感すらある。
ちなみに──もっとマニアな方なら気になるかもだが──FBI内で考案された「Rogers/SureFireテクニック」をモルダーたちがやってる場面?あれはゼロ。ていうか、あれ映像でやると妙に不格好で…見栄えが(以下略)
さてさて、懐中電灯ファンにとっての神回とも言えるのが、1999年12月12日放送、シーズン7のエピソード「ゴールドバーグ(The Goldberg Variation)」。この回は、幸運にもマフィア相手のポーカーで勝ちまくってしまったマンション管理人・ヘンリー氏が、ビルの屋上から地下に突き落とされる…という「どこが幸運やねん」的なショッキングなオープニングで幕を開ける。
ところが──落ちたはずのヘンリーの姿は現場にない。あるのは、彼の“義眼”だけ。困惑するモルダーとスカリーが捜査を開始するその場面、注目すべきはスカリーのポケットからサッと登場するSUREFIRE 6P。
これが画面ドアップで映るんですわ。1インチサイズのビッグヘッド、太くて短い絶妙の黄金比サイズ、そしてテールスイッチがちょこっと飛び出しているのもバッチリ確認できる。
しかもスカリー、しばらく点灯させたかったので、ちゃんと“ねじって”点灯してる。6Pはもちろん、ボタンと、くるっと回して点灯させる二つの仕様だったんです。
そんな細かいところも拾ってくる『Xファイル』、やっぱり侮れない。懐中電灯ひとつでここまで語れるドラマ、後にも先にもこれくらいじゃなかろうか。
その後、モルダーとスカリーは、手がかりの義眼をたよりに被害者・ヘンリー氏が管理人を務めているアパートへと向かうことに。ここでまたしても“暮らし安心”なFBIの本領発揮。現地に到着すると、なんと住民の主婦から「水道のバルブが閉まらないんですの」と助けを求められたモルダー、まあまあ良い笑顔で引き受ける。「えっ、捜査官ってそういうのもあるのか。ガーンだな」って五郎ちゃんが一瞬思うけれど、困ってる市民は放っておけない、それがモルダー。五郎ちゃんも困ってる中国人店員のために店長にアームロックかけてたろ。それ以上いけない。
というわけで、スーツ姿でレンチを手に、颯爽とキッチンのシンク下に潜り込むその様子は、もうほぼ“クラシアン”。傍らで腕を組みながら『クックック……』と小声で笑いをこらえるスカリーの表情……あいつ…あの目。
……しかし、そのまま事態は思わぬ方向へ。モルダー、なんと水道管のバルブを力任せに締めた結果、逆に人間火力発電所みたいにうおォンとぶっ壊す。
漏水により脆くなっていた床板が崩れ、そのまま階下に落下するというクラッシュ・オブ・ザ・年末特番。尾てい骨を強打して床下でうずくまるモルダーを、スカリーがSUREFIRE片手に上階の穴から照らしながら、呆然とも苦笑ともつかない顔で見下ろす──という名場面が誕生するのであった。
ちなみにこのときスカリーが使っていたのは、旧型SUREFIRE 6P。点灯時にテール部分を“ひねって”オンにしているのだが、そのシーンではなぜか「カチッ」という結構大きめの音が響く。
──さておき。SUREFIRE愛好家が見逃してはいけないのが、シーズン6・第15話「スイート・ホーム(Arcadia)」。このエピソードでは、モルダーとスカリーが夫婦を装って“理想郷”と謳われる高級住宅街に潜入するという、いわば「スパイごっこ夫婦ごっこ」の回。だが、そんな設定もどこ吹く風で、しれっとSUREFIREを投入してくるあたり、この作品やはり抜け目がない。
ある夜、近隣住民の飼い犬が逃げ出して側溝に潜り込んでしまうハプニング発生。そこでスカリーが迷いなくポケットからSUREFIREをシュッと取り出し、さっと側溝に光を滑り込ませて犬の居場所を探る。この一連の動きの自然さ、もはや「捜査用具としての懐中電灯」が完全に体に馴染んでいる証左といえよう。というか、誰よりも光の使い方が“刑事っぽい”の、いつだってスカリーなんだよな……。
その傍らでは、ポケットからSUREFIREをスッと取り出すスカリーを、飼い主の主婦が「……何この人。なんでそんなゴツい懐中電灯がポケットから出てくるの?」みたいな顔で見つめているのがまた妙に印象深い。たしかに、あのシルエットでいきなり側溝にライトを突っ込んだら、ただの住人にしては違和感すごい。これはもしかして、彼女が“ただの奥さま”ではないと感づく伏線か?──などと深読みしたくなる、妙にリアルな間合いの一幕。
このシーンでも、スカリーが旧型6Pのテールスイッチをひねって点灯させる際、やはり「カチッ」という明瞭なクリック音が。
ここまで来ると、音の演出は意図的なのかもしれない。それ現実の6Pだと鳴らないんですよねえ。テールスイッチを回しても“無音”。そもそもこのライト、SWATや捜査班が「無音で忍び寄る」ことを前提に開発されてる。なお、旧6Pもオリジナルも共通して、スイッチ方式は2通り。ひとつはご存知、テールを回して常時点灯。そしてもうひとつが、テールのボタンを押し込んでいる間だけ光る“モーメンタリー・スイッチ”だ。用途や状況に応じて使い分けられる、まさに“戦術ライト”たる所以。
ちなみにこの側溝ライト捜索シーン、SUREFIREマニア的には見逃せないディテール満載。たとえば、ヘッド前方に刻まれたナーリング(滑り止めの凹凸)、ヘッド後端の急激な角度変化、そして何より、本体テールからほんの少し突き出したスイッチ・ボタン──これらの特徴、どれをとってもSUREFIRE旧6Pと完全一致。まるで製品カタログの参考映像かというくらい、ライトのフォルムが画面でしっかり確認できるのだ。
……が、惜しむらくは、スカリーがSUREFIREを使用するシーンはこの回を含めても数えるほどしかないという点。非常に貴重である。一方、モルダーは?というと──意外なことに、モルダーがSUREFIREを使用している場面は、シリーズ全体でも確認できたのはほぼ一例のみ。
それが、season6のエピソード「File No.604:How The Ghosts Stole Christmas(邦題:クリスマス・イブの過ごし方)」。幽霊屋敷に乗り込んだ二人が、モルダーの「プレゼント(=心霊現象)」を“検証”するために奮闘するあの一夜限りの珍作である。以下の画像を見れば、モルダーの手元にあるライトの形状がSUREFIREそのものだということが一目瞭然。これにより、晴れて(?)モルダーのSUREFIREユーザー認定が下ることになったのである──なんだか嬉しいような、もっと出番があってもよかったような。

画像の出典 File No.604 How The Ghosts Stole Cristmas 「クリスマス・イブの過ごし方」より(C)Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC.
STREAMLIGHT SCORPION( スコーピオン )……モルダーとスカリーが多用
さて、前述したseason7『ゴールドバーグ』の話の続きになるが、ここではスカリーがSUREFIRE旧6Pを使用して現場検証を行っていたのに対し、モルダーはというと──違うライトを使っていたのが実に興味深い。
アパート内で、かくれんぼのように姿を消したヘンリー氏の行方を追うシーン。モルダーは室内の壁に開いた穴を覗き込んで探索しているのだが、ここで彼が手にしていたのはStreamlight社の“Scorpion”。画面に映るのはライト本体の半分だけ。だが、テールスイッチが見当たらない点、そしてあの特徴的なラバーボディの造形──この2点を押さえれば、“Scorpion”であることはほぼ確定。
そして注目すべきはその扱い方。モルダーは調査を終えると、テール部分を「カチッ」と押し込んで電源を切り、そのまま無造作にポケットへ突っ込む。あのラバーボディ、確かに滑りにくく、衝撃にも強い仕様だ。無造作に扱われてもスーツを傷つけることはない──が、ポケットの中がゴム臭くなるのは避けられなさそう。
ちなみにScorpionは、SUREFIRE 6Pと違ってサイズもややコンパクトで、携帯性に優れる点が特長のひとつ。グローブを着けた状態でも操作しやすいし、滑りにくいのは屋外・雨天での運用にも強い。モルダーのように“現場でひらめく”系の捜査官には、こうした気軽さも重要なのかもしれない。
こうして見てみると、SUREFIREを丁寧にカチッ(鳴りません)と操作するスカリーと、Scorpionをラフに扱うモルダー──それぞれのキャラクターと持ち物の関係性が、何とも絶妙なコントラストを生んでいるのが面白い。道具の選び方ひとつ取っても、その人となりが見えてくる。

season7の21話『三つの願い』にて貸倉庫の中を捜索するスカリー。その手に鈍く光るSTREAMLIGHT SCORPION。テールスイッチは内蔵式のため外部から見えないのが特徴だ。SCORPIONのデザインは見事に現在市販のものと同じだ。画像の出典 X-files 7-21 Je Souhaite (三つの願い)より (C)Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC.
さらに、series7 第9話『神のお告げ』(Signs & Wonders)でも、モルダーとスカリーの使用するStreamlight Scorpionがかなりの頻度で活躍。二人は教会に通う信者の奇怪な死の謎を追う過程で、密売人のたまり場になっている麻薬ハウスや、蛇を多数飼育している神父の屋敷へと足を運ぶ。
このとき、モルダーは颯爽とポケットからScorpionを取り出し、暗がりに潜む「何か」を探る。一方のスカリーも同様にScorpionを使いこなす姿を見せ、まさに二人にとっての“標準装備”であることがうかがえる。
そして第12話『Xコップス』では、ロサンゼルス郡保安官局のシェリフたちが重厚なマグライト(おそらく当時のキセノン球モデル)を構え、ギャングの家に突入する一方で、FBIのモルダーとスカリーは、やはり軽快にScorpionを選択。マグライトの威圧的なシルエットと対照的に、ポケットサイズのScorpionを指先で軽やかに構えるスカリーの姿──その差は技術革新を象徴しているかのようだ。
もちろん、警察官が「長い金属製の懐中電灯」を使うのには理由がある。護身用の即席バトンとして機能することも想定されているからだ。重量感も信頼性のうちというわけである。
また、コメディ色の強い異色作、第19話『ハリウッドAD』では、モルダーとスカリーに密着取材するハリウッドの映画監督が登場。監督自身が超常現象を目の前にしても冷めた視点を保ち続けるリアリストという点で、シリーズにおけるメタ視点の象徴的存在だ。
その教会地下での探索シーンでは、モルダーがScorpionで空間に光の筋を描きながら、まさに“いかにもドラマティック”に捜査を進める。この照明演出そのものが、まるで映画のワンカットのようで見応えがある。
なお、このエピソードと、6-13『アグア・マラ』(Agua Mala)において、モルダーとスカリーは懐中電灯本体を口にくわえて使用するシーンがある。これは一般的な金属筐体のライトでは考えにくいが、Scorpionのラバー外装ならではの柔らかさとグリップ性能ゆえに可能な所作だ。LEDライトでもなく、強すぎない光量、適度なサイズ、口に含める太さと素材──全てが、この懐中電灯の“道具としての完成度”を物語っている。
エピソードの締めでは、映画化された劇中劇の試写会に、モルダーとスカリー、そしてスキナー副長官までもが招待される。フィクションが現実を追いかけ、現実がフィクションを追い抜く──そんなメタな構造に仕立てられたこの一編においても、やはりStreamlight Scorpionは、小道具でありながらキャラクターの一部として確かに機能していた。
ところで、この『映画』では、ゾンビたちを倒したモルダー役とスカリー役の2人が、丘を転げて棺おけに入ってしまうシーンで以下のようなやり取りが。
スカリー役女優『これは懐中電灯なの?モルダー……。それとも私の上に乗ってゴキゲンなのかしら?』
モルダー役俳優『僕の懐中電灯だ。ああ……そっちね』
試写会の会場では、モルダーがスクリーンを見つめているうちに、ついには顔を伏せてしまう──まるで「最悪だ……」とでも言いたげなその表情は、捜査の現場を忠実に再現したはずの劇中劇が、あまりにも“ハリウッド的な誇張”に満ちていたことへの苦笑いとも取れる。
対してスキナー副長官は、眉をひそめるどころか、むしろ興味深げにスクリーンを眺め、口元にはうっすらと笑みを浮かべていた。
ほう、あの「報告書を明日の8時までに提出しろ!」といつもの彼が、どこか「ま、これはこれで……」という大人の余裕を感じさせる。
そして肝心のスカリーはというと──彼女の反応は控えめながらも、微妙な表情に全てが表れている。あからさまな否定はしないが、どこか「しょうがないわね……でも、ポケットの中の懐中電灯が大きくなったりしないわ。そんなの絶対おかしい。科学的にありえない。モルダー、ねえ、なんとか言っ…寝てるわこいつ!」とでも言いたげ。心のうちでは複雑な感情が渦巻いていたに違いない。
試写会の後、3人はなんと高級ホテルの泡ぶろで、それぞれ優雅なバスタイム。これもスキナーの粋な計らいによるもので、「経費は局のカードでいい」との一言に、思わずモルダーも脱力。すごいわFBI。
だが皮肉なことに、このささやかな贅沢が、後の監査でモルダーの立場を不利にするという結果を招くことになる。カーシュ長官代理の就任後、FBI内部の風向きは一変し、Xファイル課の動向にも厳しい目が向けられるようになるのだった。
……いや、まさかこれもスキナーの戦略的な布石だったのでは? スキナーが静かに何かを見据えていたとすれば、この展開もまた一興だ。
ドゲット捜査官登場
モルダーの失踪後、season8にてXファイル課に新たに配属されたのがドゲット捜査官である。硬派なNY市警出身の彼は、当初スカリーとの間に明確な緊張関係を持ち込むこととなる。その初対面のインパクトたるや──スカリーから紙コップの水をかけられるという洗礼を受けるに至った。
さらに、モルダーとの対面でも悲劇は続く。モルダーは「あんたがドゲットか」と声をかけた直後、ドゲットが差し出した握手の手を一瞥すると、容赦なく彼を突き飛ばす。この瞬間、視聴者の心にも「ドゲたん、かわいそう……」という思いがよぎったことだろう。だって、モルダー発見の尽力を尽くしたのは彼なんですよ。
だが、そのドゲットが後に捜査中にスカリーの命を救ったことで、スカリーは次第に彼を信頼し、パートナーとして認めるようになる。そして、あの印象的なシーン──デスクに鎮座していた「FOX MULDER」のネームプレートを、スカリーが静かに引き出しにしまうあのカットには、彼女の内面に生まれた覚悟が込められていた。
ストリームライト・スコーピオンの系譜
『爪痕』のエピソードでは、ドゲットが屋根裏を探る際にライトを構えながら「懐中電灯は?」とスカリーに尋ねる。だがスカリーは、一瞬だけ言葉に詰まり、「……持たない」と答える。この一見何気ないやりとりの裏には、モルダーの不在を意識する彼女の葛藤がにじんでいるように感じられる。
なお、このシーンの真意については、2016年に刊行された小説版で明かされる“心の奥底”が参考になる。
そしてこのスコーピオンというライトは、実はseason6からseason9にかけて、長期にわたりモルダー、スカリー、ドゲット、レイエスら主要キャラクターに共通して使用された“Xファイルの標準装備”と言っても過言ではないアイテムである。
さらに、2008年公開の映画『X-ファイル:真実を求めて(I Want to Believe)』でも、スキナーが使用していたライトはおそらくこのStreamlight Scorpionであり、まさにFBIドラマにおける名脇役として、静かにそして粛々とその存在感を示し続けた。

シーズン6の17話『電界』にて、民家突入時にシグ・ザウアーとストリームライトを使用するモルダーとスカリー。(C)Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC.
1997年から2001年にかけて放映されたXファイルのseason6〜9において、ストリームライト社製スコーピオン(Streamlight Scorpion)は、モルダー、スカリー、ドゲット、レイエスらが一貫して使用する“標準装備のフラッシュライト”として、ほぼ全エピソードに登場し続けた。
この時代背景を考えると、SureFire(特に6PやZ2など)は既に軍・法執行機関・プロフェッショナルユースを前提とした高性能ライトとしての地位を確立しつつあり、同時にサバイバル/ミリタリー系マニア層の間でもカリスマ的な人気を誇っていた。
にもかかわらず、Xファイルの制作陣は5年にもわたってストリームライトの同一機種を使用し続けたわけで、その選定には明確な意図があったと考えざるを得ない。
ひとつ考えられるのは、Streamlight社によるスポンサードの可能性。実際、過去のドラマ作品──たとえば『冒険野郎マクガイバー』では、スイスアーミーナイフで知られるビクトリノックス社がスポンサードしていたという有名な例もあり、製品の露出とブランドイメージの定着に大きく寄与していた。
あるいは、Xファイルというシリーズの持つ「リアル志向」と「夜間活動の多い捜査スタイル」──そしてあの独特の低照度の映像美にマッチするライトとして、スコーピオンのコンパクトさ、押しやすいテールスイッチ、程よいスポット光といった特性が制作スタッフに高く評価されていた可能性も。
ジリアン・アンダーソンが語った「懐中電灯エピソード」
2008年のあるトークショーにて、スカリー役のジリアン・アンダーソンは、次のようなエピソードを笑い交じりに語っています。
G:私はナンバー1だった?ナンバー2だった?私たちの携帯がどんなに大きかったか
覚えてる?たまたまそれをポケットに入れてたというわけ。(もうみんな笑い転げてる。)
D:そうさ。きみはそれをポケットにいれるために、トレンチコートとか着てないといけなかった。
G:片方に携帯、もう片方には Xenon のフラッシュライト。翻訳と典拠元 My Library様 http://blog.goo.ne.jp/danayymulder/e/e56e5248b1384a717a137765ab8768c4
ジリアンが言った「Xenon flashlight」って表現、あれは単に「懐中電灯」と言わなかったところにセンスが出てる。LED全盛の今となっては、あえて“キセノン”と名指しすることで、当時のローテクさと、それでもギリギリでプロっぽさを保ってた撮影現場の空気が浮き彫りになる。
おそらく彼女の発言は、撮影現場で毎日のようにあの機材と向き合っていた当事者としての記憶に基づいてるんだろう。
それこそ本番直前に「ライト点かない!?」ってなって、監督が「バルブ替えろバルブ!」って叫ぶ横で、ジリアンがイラつきながら新品のキセノンバルブ握りしめてる姿が想像できる。モルダー役のドゥカブニーは隣で「ほら、またスカリーのエイリアンライト壊れたよ」とか軽口叩いてるけど、ジリアン本人はもう“あーっもうこのクソが!!”って感じで現場に殺気が立つ──そんなシーンがあっても不思議じゃない。
しかも、キセノンバルブって本当に繊細。点灯直後の高熱と電流に耐える設計のくせに、ちょっとした衝撃であっさり昇天する。スカリーが薄暗い倉庫で走りながら捜査してる最中に電灯がプスッと消えて、監督が「……カット」って呟く虚無感、想像に難くない。
それをあえて“キセノンのフラッシュライト”って表現したジリアンは、たぶんそこまで見えてる。現場での「生き物としてのライト」に、軽く敬意を払ってる。だからこそ、「ただのライトじゃないよ」と言いたかったんだと思う。
そして、当時の主流──Surefire 6Pなんかはまさにその“キセノンライト界の女王”だった。優れた光量、タクティカルな外装、手の中で“戦うための道具”として成立する重量感。代償として、CR123A×2本という高価な電源と、500時間保証という名の消耗品バルブ。軍用と割り切れば当然のスペックなんだが、ドラマの撮影現場でそれを回すには、とにかく“予備”が大量に必要だったはず。
そして、その予算を連邦政府がどう組んでたのか──お察しの通り、モルダーは結局、経費使いすぎで叱られてる。だが、こちとら未確認飛行物体を追ってるんだ。電池代ごときで捜査止められてたまるか。……とはいえ、局の監査は甘くなかった。「局のカード使って泡風呂入った件」とセットで問題視(!?)されるのがまたリアル。
まとめると、ジリアンのあの“Xenon”発言ひとつで、機材・撮影現場・演出・予算・そしてキャラクターの人間味まで一気に浮かび上がる。Xファイルという作品が、単なるSFじゃなく、どれだけリアルの“現場”に根ざして作られてたか、よくわかる一言だった。
モルダーとスカリーの懐中電灯まとめ
というわけで、モルダーとスカリーがこれまでに使ってきた主な懐中電灯は以下の5つ。
- MAGLITE(主にシーズン1から4まで)
- MAXA BEAM(主にシーズン1から4まで)
- Underwater Kinetics(主にシーズン2から4まで)
- STREAMLIGHT(主にシーズン6から9まで)
- SUREFIRE(主にシーズン6。かなり限定的に使用)
X-ファイルって超常現象と陰謀の話なんだけど、ライトに限らず、こういう装備品ディティールへのこだわりがあるから、強みなんだよな。リアルな世界との接地面がちゃんとある。そこが今も“考察しがいのある”ドラマであり続ける理由だと思う。
あと、スコーピオンと6Pの対照表はこうだ。
項目 | ストリームライト・スコーピオン | シュアファイア 6P |
---|---|---|
メーカー | Streamlight | SureFire |
登場作品 | 『X-ファイル』シーズン6~9 モルダー、スカリー、ドゲット、レイエス、スキナーらが使用 |
モルダー、スカリーが使用するも、全話通して数回 |
バルブ種別 | 高出力キセノンバルブ | 高出力キセノンバルブ(P60系) |
光束(ルーメン) | 約78ルーメン | 60ルーメン |
使用電池 | CR123A × 2本 | CR123A × 2本 |
重量 | 約128g(電池込) | 約140g(電池込) |
点灯スイッチ | テールスイッチ(モーメンタリ+クリック) | テールスイッチ(モーメンタリ+ツイスト方式) |
ボディ材質 | アルミ+ラバーグリップ | アルミボディ(HA仕上げ) |
グリップ感 | ラバーで滑りにくい、軽快な操作感 | 滑り止めの刻み |
劇中描写の印象 | ・両手が塞がった際に口に加えて保持 ・片手照射+銃との併用に適していた ・照射→スイッチOFFの手際が良い ・ラバー部が手袋でも滑らず、冬の撮影向き |
・映画や他作品でSWATや軍装備とセットで登場する傾向 ・Xファイルでは逆に「ほぼ使われてない」ことが、意図的に“FBIのスタイル”を演出していた疑いも ・何らかの演出意図で候補から外れたか? |
耐久性 | 非常に高い(警察向けに設計) | 非常に高い(軍・警察向けに設計) |
総評 | 劇中向き:光の柔らかさと操作性の良さで、“FBIらしい”落ち着いた照射演出が可能 | 戦闘向き:タクティカル用途で威圧感あり。ドラマのトーンによっては強すぎたかも? |
この比較から見えてくるのは、スコーピオンの選定にはかなり演出的な意図があった可能性が高いってこと。Surefireの6Pはタクティカルで格好いいが、X-ファイルの持つ“静けさの中の緊張感”という世界観にはちょっとハードすぎたのかもしれない。
あと、Streamlightが番組にスポンサーしたかどうかは公にはされてないけど、5年以上同じ機種を全員で使い続けるってのは尋常じゃない。それが視聴者に“Xファイルのライト”という刷り込みを与える要因にもなった。
もちろん、彼らFBI捜査官は経費でCR-123A電池をまかなっているだろう。とはいえ、シリーズ後半ではその“経費の使いすぎ”が問題になる一幕もあるので、使い方にはご注意を。
劇中に登場した小物を手に、モルダー捜査官やスカリー捜査官になりきって彼らの当時の時代背景を愉しんでみたいと思うファンはこれらのライトで仲間同士とライトの光を交差させて『X』の文字を作って遊んだり、実用に使ったり、コレクションしてみてはいかがだろう。
なお、続編となる2016、2018それぞれに登場するライトも以下の記事で解説済み。