「ズンガリガ~リ…」―25年後の再会と、トラウマの民族音楽学

小学校4、5年生のある日、教室に突然響いた「ズンガリ、ガリガリ、ズンガリガ~リ……」という謎の歌声。

歌唱の発信源は、当時40歳くらいの女教師だった。前置きもなく、前触れもなく、いきなり暗い声でその呪文のようなフレーズを唱え始めたのだ。

「ズンガリ、ガリガリ、ズンガリガ~リ……」

音楽の授業でもなければ、怪談の導入でもない。ましてや道徳の授業とも関係ない。あまりに意味不明で、あまりに不気味だった。教室の空気は一瞬にして凍りつき、笑う者もいなかった。誰もが「なにかが始まった」と思った。ある種の儀式か、心理実験か。今で言えばホラー演出のBGMに使えそうな響きだったが、それは90年代の小学校。そんな概念すらなかった。

それから四半世紀以上が経った。ある日の夕暮れ時、なぜか唐突に脳内に蘇る「ズンガリ節」。なにかの拍子に封印が解けたのだろうか。いまだに脳裏に焼き付いて離れないあの旋律と、不気味な教師の横顔。

これはいよいよ決着をつけねばならぬ。

そして検索。ついに、あの歌の正体を突き止めた。

それはまさかの――パレスチナ民謡

タイトルは「Zum Gali Gali(ズン・ガリ・ガリ)」。

発祥地:中東。歌詞の内容:平和と労働を讃えるポジティブなメッセージ。
なんとMIDI音源も公開されており、まさに記憶の中の「ズンガリガ~リ」が流れ出す。

http://bunbun.boo.jp/okera/saso/zum_gali.htm

あれほどの暗黒儀式感はどこへやら。どうやら女教師が放っていた“ズンガリエネルギー”の演出力が異様だっただけらしい。

それにしても、小学生に向けて、パレスチナの民謡をあんな形で紹介していた意図とは何だったのだろうか。文化交流の一環? それとも教育委員会非公認の独自カリキュラム? いまだ謎は残るが、少なくともあの一瞬で「中東=ホラー音楽」という刷り込みをされかけたのは事実である。

しかし、こうして記憶の奥底に沈んでいたフレーズが再び浮かび上がり、真相に辿り着くというのも、ある種の癒しなのかもしれない。

我々のトラウマのいくつかは、単なる知識不足が生んだ誤解の産物かもしれない。
トラウマと和解するための第一歩は、まず検索からなのだ。